連載:欧州 旅するフットボール

「ほし鱈と老記者の卓見」 若きC・ロナウドが過ごした7つの丘の街

豊福晋
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「UEFA EURO 2004」決勝トーナメント準々決勝でアシュリー・コール(右)と競るロナウド 【Getty Images】

リスボン

 バルセロナを飛び立った飛行機はイベリア半島を横断し、大西洋にさしかかる手前でゆるやかに旋回する。

 目下にはテージョ川の河口が大洋へ向けて広がっていて、機体はその上を滑るように降下していく。

 ポルトガルはおそらくは西欧で唯一、いまだ古き良き欧州の空気が流れる国だ。リスボン空港から市街へと続く道はどこか牧歌的で、街角ではもくもくと煙を漂わせながら老婆が焼き栗を売っている。石畳の路が、リスボンを形成する無数の丘を登っては降ったりしている。ポルトガルの石畳は風情と情緒のみを考慮して作られているから、でこぼこと隙間だらけで、現地人であっても時々つまずいてしまう。

 変わらない風景。もしかしたらこの街だけは発展や近代化とは永遠に無縁なのかもしれない。

 古いフィアットの、もはや機能しているだけで賞賛すべきラジオは、スポルティングCPの試合中継を流していた。中年のタクシー運転手がため息をつく。

「近頃じゃスポルティングは全然だめだ。チームは外国人選手ばかりになっちまってね……。クリスティアノ・ロナウドみたいな若くて才能あるポルトガル人は、もういないんだ」
 ロナウドはこの街で育った。生まれたのは大西洋に浮かぶマデイラ島だ。彼は島で11歳まで過ごし、その後若手育成に定評のある名門スポルティングへ入団。17歳でトップチームにデビューし、やがてマンチェスター・ユナイテッドへと移籍する。その後は栄光の道を歩み、いまでは世界の頂点に君臨する選手になった。
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著者プロフィール

ライター、翻訳家。1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経てライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み現在はバルセロナ在住。5カ国語を駆使しサッカーとその周辺を取材し、『スポーツグラフィック・ナンバー』(文藝春秋)など多数の媒体に執筆、翻訳。近著『欧州 旅するフットボール』(双葉社)がサッカー本大賞2020を受賞。

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