新スタジアムで描く夢とJ2昇格の可能性 岡田武史、14年ぶりにJの舞台へ<後編>

宇都宮徹壱

岡田会長インタビュー後編は新シーズンについて。スタジアム構想やJ2昇格への想いを語ってもらった 【宇都宮徹壱】

 1月26日、夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)に隣接するイオンモール今治新都心にて、FC今治の「2020シーズン新体制発表会」が発表された。残念ながら今年は現地取材ができなかったが、当日は700人以上のファン・サポーターが詰めかける盛況ぶり。次々とSNSにアップされる速報や動画を見ながら、「ちょっと無理してでも行けばよかったな」という後悔の念に苛まれた。

 この新体制発表会は、単にクラブの方針発表や新加入選手の紹介だけでなく、さまざまな重要案件が明らかになった場となった。今季からチームを率いる、スペイン人のリュイス・プラナグマ・ラモス監督のお披露目。新スタジアム建設の展望や岡田メソッドの事業化。そして、新しい胸パートナー(今シーズンよりスポンサーではなくパートナーと呼ぶ)にユニ・チャームが決まったことが発表されると、ファンの間からは大きなどよめきが起こった。

 今年の2月4日に都内で行われた、岡田武史会長へのインタビュー。昨シーズンを振り返っていただいた前編に続いて、後編ではJクラブとして初めて臨むシーズンの展望を語っていただく。日本ではまったく無名だったリュイス監督に白羽の矢を立てた経緯、1万人以上の収容が可能な「里山スタジアム」のコンセプト、そしてJ2昇格をどこまでリアルにとらえているのか、などなど。引き続き、岡田会長の言葉に耳を傾けることにしたい。

新体制発表会をメディアとファンに分けた理由

──1月26日に開催された新体制発表会、今年は現地ではなくネット動画で拝見したのですが、ファンやサポーターを交えての、ものすごい盛り上がりでしたね。

 僕もあれにはびっくりしました。今回は初めての試みとして、メディア向けとファン向けに分けて実施したんですよ。ファン向けについては、イオンモールの中にあるホールをお借りしたんですが、300人くらいを想定していたら700人くらい来ていただいて。それで僕が登壇した時に「新しい胸パートナーはユニ・チャームさんに決まりました」と言ったら、どっとどよめきが起こって。今治の皆さんは、ユニ・チャームが愛媛の会社だということをご存じだから、それもあって衝撃的だったんでしょうね。

──あの方針発表の直後、知り合いの女性サポが「今日、早速ユニ・チャーム買いました」みたいな写真をSNSでアップしていました(笑)。

 愛媛FCさんのスポンサーはエリエール、つまり大王製紙なんですね。つまりユニ・チャームとは強烈なライバル関係にあるわけです。ユニ・チャームの社長さんも「大王さんのところがJ2でウチがJ3なのは、ちょっと気に入らない。練習試合でも絶対に負けないでくださいね」って言われて(笑)。そういう面白さもありますね。

──なるほど(笑)。ところで今回、メディア向けとファン向けに分けたのは、岡田さんのアイデアだったのでしょうか?

 いえ、ウチのスタッフのアイデアですね。僕は最初「2回もやるの? 面倒くさいなあ」って思ったんだけど、それでも「分かった」と。ただ結果として、2回やって良かったなと今は思っています。というのも今年の方針発表では、組織としての夢や理念だけでなく、具体的な事業の話もしなければならなかったから。岡田メソッドの事業化や里山スタジアムに加えて、パートナーの話までメディア向けにしてしまうと、パートナーの名前が埋もれてしまう可能性があったかもしれない。

──メディアの側からすると、その可能性は十分に考えられますね。

 だからメディア向けとファン向けに分けて、ファン向けのところでユニ・チャームの名前をどーんと出すほうがインパクトはあると、ウチのスタッフが考えたのかもしれない。実際、あれだけのどよめきが起こったし、最後の囲み取材でもかなり質問がありましたからね。そういう意味では、本当に分けて正解だったと思っています。

「力量に関しては未知数」なリュイス監督を選んだ理由

チームの指揮を執るリュイス監督(左下)。電話で話をして決めた 【写真は共同】

──次に現場についてお話を伺いたいと思います。今年からチームの指揮を執るリュイス監督ですが、てっきり後任は日本人だと思っていたらスペインの指導者だったので驚きました。新監督に求められる条件について、岡田さんはどういうお考えだったのでしょうか?

 日本人監督で、ウチが支払える条件を受け入れてくれる優秀な指導者が、なかなか見つからなかったというのがひとつ。加えて、岡田の下で指揮を執るのは大変だと思われているみたいで(苦笑)。それでスペインにいる高司(裕也=元FC今治スポーツダイレクター)に相談したら、「こっちに将来有望な男がいます」ということで、電話で話をしたら人間的にもいいやつだったので彼に決めました。

──スペインに行って、直接面談などはしなかったんですか?

 時間もなかったしね。もちろん、僕のほうでも情報は集めましたよ。そうしたら、スペインではわりと評判がいいということが分かった。しかも給料も大して高くないのに、遠く日本までチャレンジしたいと来てくれるんだからね。人間的にも素晴らしいし、謙虚で僕のことをリスペクトしつつも、いろいろディスカッションもできる。これが日本人だと、どうしても岡田の言うことを聞かないといけないという感じになってしまうし、こっちはこっちで遠慮してしまうからね(苦笑)。

──それは確かにありますよね。編成については、どんなリクエストがあったんですか?

 現状のメンバーでやりたい、ということを言ってきましたね。僕のほうからは、ポイントとなるポジションに外国人選手を呼んできてもいいぞって言ったんだけど、今回は補強なしでこのメンバーでやりたいと。こちらも「よし分かった。厳しいようだったら、夏には補強できる準備はしておくから」と言っておきました。選手のほうも、生き生きとした感じでトレーニングをやっている印象でしたね。

──リュイス監督は育成での実績がある反面、日本での仕事は初めてです。そのあたりの不安はありませんか?

 2部や3部のクラブでの指導歴はあるので、そこはあまり心配していないです。チームマネジメントに関しても緻密だし、ウチのフィロソフィーに対しても強いシンパシーを感じてくれているのでね。もちろん、彼の力量に関しては未知数なところはあります。それでも僕は、物事には何らかの理由というものがあって、彼が今治に来てくれたこともきっと、われわれにとって意味があるのだと思っています。だからポジティブに考えているし、彼がどんなサッカーを見せてくれるか、とても楽しみですね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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