入れ替え戦が無観客試合から中止へ Vリーグが下した決定に広がる波紋

田中夕子

クラブにとって「中止」は存続をも揺るがす問題に

新型コロナの影響は大きく、7月に開催予定だった東京五輪は、1年以内の延期が決まった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 ならば当然、次は延期という選択肢もあるはずだ。

 しかし原則、大前提としてVリーグのシーズン設定に限りがある。今年度に至っては3月15日のチャレンジマッチをもってすべての日程が終了とされるため、新型コロナウイルスという未経験で予測不能の事態とはいえ、終息後の5月や6月に開催という選択肢は初めからなかった、と沖氏は説明する。

「優勝チームや個人賞と同様、チャレンジマッチもあくまで今シーズンを戦った結果であり、各チームの戦力も変わる中、日程だけを変えて行うというのは現実的ではありません。『ならば来シーズンの開幕直前でいいじゃないか』と言われるかもしれませんが、そうなれば、今度はもしも入れ替わった場合の試合会場の変更も含め、対戦する他のV1チームに承諾を取らなければならない。ヴォレアスの言い分はもちろん理解しているつもりですが、現実的にはどうにもならない、というのが現状です」

 7月に開催予定だった東京五輪は1年以内の延期が決まり、国内のみならず世界各国で多くのスポーツ大会が中止、延期の決断を余儀なくされている。いくら権利を得たとはいえ、バレーボール、チャレンジマッチも例外ではない。そう見る人も少なくないかもしれない。

 だが、大企業に属するいわゆる企業チームと異なり、地域密着を掲げ、複数スポンサーの支援からなる「クラブ」にとって、中止は存続をも揺るがす大問題だ。事実、優勝が懸かっていたレギュラーラウンド最終節、北海道でのコロナウイルスの感染拡大を懸念し、帯広でのホームゲームが中止になったヴォレアス北海道もそうだ。池田氏は言う。

「体育館の使用料、事前告知のCM、印刷物、動画、ネット広告、新聞社への広告、リースの代金や人件費で支出は2日で約800万円。その分を補うチケットやグッズ、飲食を含めた物販で900〜1000万円の収入を見込んでいました。興業としてようやく黒字に転換し、V1へ向けていざこれから、というところで最終戦がなくなった。

 それでも選手も僕たちも『チャレンジマッチがあるから』と納得せざるをえなかったのですが、それも一方的に中止。これから選手の年俸交渉に入りますが、収入が減れば当然選手に払える額も減る。結果を出しても報われなければ、会社に不信感を抱かれることもあって当然でしょうし、V1という夢の舞台で戦うことをモチベーションにしてきた選手からすれば、心が折れてしまうかもしれない。それを全部押し殺させて『理解してくれ』とは、僕には言えません」

 リーグとして事業化を打ち出す以上、これはヴォレアス北海道の問題のみに限らない。3月8、9日に三重県津市のサオリーナで開催されるはずだったホームゲームが中止となった男子V2リーグ、ヴィアティン三重の椎葉誠・チームディレクターはこう言う。

「1社からスポンサードされるのではなく、ヴィアティン三重は52社のスポンサーから、その会社、その場所で働く方々が稼ぎ出したお金でわれわれの夢を後押ししていただいています。それは『Vリーグというバレーボールの国内トップリーグで戦うこと』であり、その夢をかなえる機会、支援に応える機会がなくなれば、スポンサーとしては当然『投資できない』という判断を下すのも当たり前です。

 今回のように、何か特例があった時は、簡単にチャレンジマッチが中止になるという前例が加われば、『1位になっても上がれない仕組みがあるリーグや、そこへ参戦するクラブに支援はできない』と言われても仕方がない、ということです。経済が停滞する以上、1社だろうと複数だろうと、スポンサーとの関わりが大きく変わっていくであろう中、今後のバレー界の危機にもつながりかねない大問題です」

選択に正解はないが、「説明不足」感が否めない現状

 チャレンジマッチ中止の決定を受け、ヴォレアス北海道は9日、旭川市長、東川町長、鷹巣町長、比布町長と連盟でVリーグ機構宛にチャレンジマッチ開催を求める緊急要望書を提出した。翌日には旭川市内で記者会見を開き、経過説明と同時に、中止に至る経緯説明をVリーグに求め、中止を撤回しチャレンジマッチ開催の検討、どうしてもそれがかなわないのであれば緊急措置として、来季のV1男子を11チームで開催する案を示したことを明かした。

 当初はヴォレアス北海道の心情を重んじ、「選手、スタッフ一同に発言を控えさせてきた」(笹川GM)というVC長野も19日、今シーズンの活動報告を兼ねた記者会見を行い、中止に至る経緯説明やその過程でクラブとしてどんな判断を行ったか。「逃げた」と批判される中で選手たちは「試合をして、勝って残留を決めたい」と希望したことや、来季は11チームでの開催に肯定的であることなど、クラブとしての意思表示を行った。

 ではVリーグはどうか。同様の事態に見舞われ「延期」や「中止」を決めたJリーグやBリーグと比べ、説明不足は否めない。もちろん、バレーボール界、スポーツ界のみならず、世界を揺るがす新型コロナウイルスという見えない脅威が敵である以上、どんな選択や決定も異なる視点で見れば正解はない。だが、せっかく得られた権利を失うに至る経緯や、延期が不可能な理由、救済措置が行われない理由を知りたい、とヴォレアス北海道が主張するのは当然の権利でもある。

 新リーグとしてスタートはしたものの、ファンサービスやイベントを打ち出すだけのホームゲーム開催に留まり、未だ企業における福利厚生の域から脱しようとしないチームも残念ながら少なくない。ヴォレアス北海道のように「プロ」として成果を挙げるクラブと同じ「リーグ」として意思統一を図り、束ねるのは容易ではないことも理解できる。

 だが、見るべき相手は誰か。その試合が実現すること、勝敗の行方を見届けることを楽しみにしていたファンではないだろうか。

 昨秋ワールドカップが開催された北海道は、国際試合とはいえ観客層はさまざまで、日本戦のみならず海外勢同士の試合も観客が楽しむ姿があり、中には日本代表ではなくヴォレアスのTシャツを来たファンもいた。同様に、決して派手ではなくとも、回数を重ねるごとにホームゲーム演出の質が高まり、観客動員数が増え、企業色の強いV1リーグの中で長野は“おらが町のチーム”、として存在感を見せた。ヴォレアス北海道も、VC長野も多大な努力の末、Vリーグが掲げる「地域密着」や「事業化」を実現してきた。

 そんなクラブが、初めてトップリーグ昇格の挑戦権を手にし、勝利して有言実行を果たす。または、そんな勢いあるクラブに対し、トップリーグで重ねた経験を武器に、勝利して残留を果たす――。どんな結果だったとしても、今しかない喜びをサポーターと分かち合う。クラブスポーツにとって最も大きな醍醐味(だいごみ)が中止になり、しかも救済策が示されないというのは、クラブにとって、何よりファンにとって、あまりに報われない結末だ。

 一度下された決定が翻ることはほぼない。だが、外部には議事録すら公表されない理事会だけですべて決定がなされ、決定事項だけが伝えられても、もはや誰も納得しないのではないか。ヴォレアス北海道、VC長野も含めた当人同士の議論を、多くの人が目にすることのできるオープンな場で行うことも含め、「従来は」「これまでは」ではなく、見据えるべきは「これから」だろう。

 芽生えた希望を消さぬためにも、真のアスリートファースト、ファンファーストに向けたアクションを願うばかりだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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