連載:春のセンバツ キラリと光る球児を探せ!

仙台育英・笹倉世凪は“東北の宝” 試行錯誤が続くも、投打にあふれる才能

大利実

春のセンバツではピッチングはもちろん、バッティングも楽しみにしていると話した笹倉。「東北の宝」の投打に注目してほしい 【写真は共同】

 東北の宝――。

 仙台育英・須江航監督が、笹倉世凪(せな)を見たときに最初に抱いた印象である。

 笹倉がまだ小学6年生だったとき、「岩手県にすごいピッチャーがいる」との噂を聞いて、一関市まで足を運んだ。当時、須江監督が指揮していたのは仙台育英秀光中等教育学校。小学生にして、120キロを超えるストレートを投げるスケールの大きさに、一目ぼれした。

 春のセンバツは残念ながら中止となったが、晴れの舞台に向けて準備を重ねてきた笹倉の想いを届けたい。(2月下旬取材)

中学時代から全国に名を轟(とどろ)かせた

 噂以上の逸材だった。

 須江監督は、笹倉の母親に言った。

「お子さんは、東北の宝です」

 地元のリトルシニアに進むことを考えていた笹倉の心が変わり、仙台で寮生活を送ることを決めた。

 仙台育英秀光中では、1年夏から5季連続で全国大会に出場。入学時126キロだったストレートは、2年春には137キロ、3年夏には147キロと身体的な成長とトレーニングによって、順調に伸びていった。

 圧巻だったのが2年春の全日本少年軟式野球大会でのピッチングだ。2回戦で先発すると、5回までオールストレートで挑み、無安打、9奪三振。ストレートだけで5回を投げ切るピッチャーは初めて見た。

 3年夏の全国中学校軟式野球大会では、ライトに打った瞬間わかるホームランを放つなど、12打数5安打と打つほうで目立った。

 それでも、目標にしていた日本一には届かなかった。3年夏は決勝戦で、森木大智(現・高知高)擁する高知中に、タイブレークの末に惜敗。試合後、目に涙をためて、「1年生から甲子園に出たい。甲子園でバックスクリーンに3打席連続ホームランを打ちたい」と、高校での目標を語った。

 そして、涙の全中から1年後――。
 笹倉は夏の甲子園で躍動し、「スーパー1年生」として大きな注目を集めた。

 最速145キロのストレートを中心としたピッチングで、3回戦の敦賀気比戦では9回1死三塁のピンチで好救援。左バッターのインコースを強気に突き、1点差を守り切った。打っても、1年生とは思えぬ力強いスイングで、2本の二塁打を放った。

 新チームとなった秋は、エース番号を背負うもコントロールに苦しみ、公式戦20イニングで与四死球17、防御率4.05。「1」にふさわしい投球を見せられなかった。

 その一方でバッティングでは、宮城大会準々決勝の東北戦で左中間へ逆転サヨナラ3ランを放つなど、公式戦12試合で打率4割8分8厘、17打点、3本塁打と爆発。宮城大会、東北大会優勝に大きく貢献した。

 センバツは、自身2度目の甲子園。中学時代から数えると、驚くべきことに7季連続の全国舞台となる(編集注:小学6年時には東北楽天ジュニアに選ばれ、NPBジュニアトーナメントに出場している)。

ピッチャー・笹倉の意外な挑戦

今、チームに貢献できるのは「バッターの方」だという 【撮影:大利実】

 2月下旬――。グラウンドがある多賀城市は底冷えする寒さだった。それでも、午前中からメンバー入りを争う紅白戦が行われ、笹倉は2試合目に出場する予定だった。

 ところが、1試合目の塁審をしているときに打球が体に当たり、大事を取って出場回避。投打の状態を見ておきたかったが、こればかりは仕方がない。インタビューのみの取材となった。

 目の前に現れた笹倉は、昨夏の甲子園の時よりも明らかに大きくなっていた。

「秋が終わってから本格的にウエイトトレーニングを始めて、体重が10キロぐらい増えました。今は177センチ、85キロ。センバツに向けて、体を少し絞っていく予定です」

 センバツでは投打両面に注目が集まるが、まずは投手・笹倉から。

 1月のブルペンで、自己最速となる149キロを記録し、地元紙には「センバツで150キロを出したい」というコメントが掲載されていたが、本人からは意外な言葉が飛び出た。

「1週間ぐらい前から、サイドスローに近い腕の角度に変えました。上から投げているとどうしてもコントロールが乱れてしまう。そこが不安で。自分の武器である横滑りのスライダーも、なかなか投げられない。腕を下げることによって、コントロールが安定して、スライダーも曲がるようになりました」

 サイドスロー……?

「どのぐらいの角度?」と実演してもらうと、サイドというよりはスリークォーターだった。

「球速は145キロぐらいです。もともと、自分のストレートは動くんですけど、腕を下げてから、高めは伸びて、低めはより動く。あとは、以前よりもグラブの位置を下げたことで、右の肩甲骨をはがせるようになって、横移動の時間を長く取れるようになりました」

 理想の投手に掲げるのが、カージナルスの左腕、アンドリュー・ミラーだ。スリークォーターから鋭く曲がるスライダーを武器に、リリーフで活躍。メジャー通算780イニングで923奪三振と、高い奪三振率を誇る。

「スライダーで三振を奪えるピッチャーになりたい。センバツに向けて落ちる球も練習しています」

 では、打者・笹倉はどうか。

 質問を振ると、投手・笹倉よりも表情が明るく、口が滑らかになった。

「正直、今はバッターの方が楽しくて。ピッチャーはコントロールにまだばらつきがあるので、チームに貢献できるのは1試合通じて出場するバッターだと思っています」

 意外な告白だった。ピッチャーへの欲が強いと思っていたからだ。

「中学のときはピッチャーで活躍したいと思っていたんですけど、今活躍できるほうと考えたらバッター。フルスイングが、自分の持ち味です」

 バッターとしての目標は、オリックスの吉田正尚。自分よりも小さい173センチの身長にもかかわらず、美しい軌道のホームランを放り込むことに憧れを抱く。

 技術面で参考にするのは、東京ヤクルトの若き大砲・村上宗隆のタイミングの取り方だ。早めに前足を上げて、ピッチャーがボールを離す前にはトップの形を作っておく。始動を早くすることで、「対応力が上がった」と明かす。

現在、高校通算3本塁打。全て公式戦で打ったものだ。ホームグラウンドが両翼100メートルもあるため、なかなか量産できないが、「3年夏までに30本は打ちたい」と意気込む。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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