謎の数字を叫ぶとボールが回りだす “岡田メソッド”の神髄を垣間見た

飯尾篤史

4種類のサポートを使い分ける

サポートは局面によって判断し、使い分ける。基本的なプレーだからこそ「原則」が重要になってくる 【スポーツナビ】

“謎の数字”は実は、サポートの種類を表している。

 1=緊急のサポート。ボール保持者が困っているから、とにかく寄って行き、パスを受けるためのサポート。

 2=継続のサポート。ボール保持者がフリーで、近づきすぎずにパスをもらって展開するためのサポート。

 3=相手を越えるサポート。ボールを前進させたり、展開させたりするためのサポート。自分のマークや守備ラインを縦に越えてパスを受ける場合は3A、レーンを横に越えてパスを受ける場合は3Bと呼ぶ。

 これはスペイン人の若いコーチがやったんですけど、と前置きして岡田氏が説明する。

「それまで僕は『サポートしろ、サポートしろ』とか、『いや、今のは寄らなくてもいいだろう』とか言っていたんですけど、選手からすれば、100通りくらいあって、『この場合はどうなの?』となる。でも、こうしてサポートの仕方を整理し、『1』『2』と言わせるようにすると、周りや敵のポジションを見ないと言えない。すると、自然とボールが回り出したんです。もう、目からうろこが落ちましたよ。俺はこの20数年、何を教えてきたのかと」

 4種類のサポートの中から自分がどのサポートをするか判断するために、周りの状況をしっかり確認するようになり、ボール保持者と同じ絵を描けるようにもなったというわけだ。

 さらに、子どもたちは「ブラッシング(パスを出したあと、パスを出した方向に動いてリターンパスを受ける一連のパス交換)」「デカラ(ゴールを背にしてパスを受けたとき、より体勢のいい、前を向いている味方にパスを出すこと)」にも挑戦し、ボールの動かし方、マークの外し方を学んでいく。

 こうして6つのトレーニングメニューに取り組んだあと、再び6対6のゲームを行うと、ピッチを広く使えるようになり、ボール保持者に寄るのか、離れるのか、そのメリハリも明らかに良くなっていた。

 そして最後に、今度は子どもたちだけで「GOOD、BAD、NEXT」が行われ、さまざまな意見が飛び出した。

GOOD
「パスコースを作れるようになった」
「最初にやったゲームよりサポートができるようになって、ボールがよく回った」
「ピッチを広く使えるようになって、攻撃の意識が変わった」

BAD
「ゴールを決められなかった」
「声が少なかったのと、ロングボールを使って急ぎすぎて、ボールを失った」
「攻撃の意識ばかりで、守備がおろそかになった」

NEXT
「もっと細かく、ワンタッチでボールを動かせるようになりたい」
「攻撃面の技術をもっと磨きたい」
「攻撃だけでなく、守備もしっかり意識してプレーしたい」

4年に及ぶ試行錯誤を経ていよいよ普及へ

岡田メソッドはまず書籍という形で世に出た。次のステップは普及。岡田氏、FC今治のチャレンジは続く 【スポーツナビ】

 実技講習を終え、岡田氏はこんな感想を語った。

「ちょっとは意識してくれたかなと。でも、まだ癖にはなっていないから、意識したことばかりをやっているような感じがあって、これで試合をしたら負けるだろうね、ディフェンス、全然やってないもんね(笑)。でも、意識してくれただけでも良かったなと思います」

 今回、サポートの仕方やポジショニングについてレクチャーしたが、これはほんの触りにすぎないという。

「メソッドを一番伝えやすく、一番分かりやすいのがサポートのポジショニングの原則なんです。だから、今回はこれをやりました。本を見ていただければ分かるように、メソッドには共通の原則から、攻撃、守備の原則、チームプレーの原則、個人とグループの原則と、全部あって、それに紐付いた練習メニューも図解で紹介しているので、そういう意味では、今日のメニューは、ほんの一部です」

 書籍『岡田メソッド』には決して特別なことばかりが載っているわけではない。むしろ、これまでにも指導されてきたようなことも並んでいる。しかし、これらを体系化したものは過去になく、そこに大きな意義がある。

『岡田メソッド』を作り上げるうえでの原点は、主体的にプレーする自立した選手を育てたい、という強い思いだ。4年にわたって試行錯誤し、世に広めるだけのものができたと自負している。

 日本代表の選手たちが自発的にプレーできるようになったとき、世界に伍して戦えるようになる――。岡田氏は、そう確信している。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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