【前編】辻直人×小塚崇彦(フィギュア) 一流選手が感じる「ゾーン」とは
ルーティン
小塚さんに自分のルーティンを説明する辻選手。対談は終始和やかなムードだった 【写真:三浦雄司】
小塚 「ゾーンに入る」っていう言葉があるじゃないですか。僕の中では1回だけしかなくて。11年の世界選手権(モスクワ・小塚は銀メダル獲得)のときなんですけど、そのときは「無」でしたね。始まったら終わってました。
辻 へえ。
小塚 終わってからテレビ局の人に「小塚君、あのときに何言ったか覚えてる?」って聞かれたんです。僕は覚えてなかったんですけど、4分半の演技で疲れて体力なんか全然ないはずなのに「僕、もう一回滑れます」って言ったらしいんですよ。それだけ勝手に体が動くまでやっていたみたいです。
辻 今、鳥肌立ちました。
小塚 だから、覚えてるんだけど覚えてないんですよ。そのときの話をしてって言われても、何も覚えてないから何も話ができない。
辻 ゾーンに入るきっかけとか、演技の前のルーティンみたいなのはあります?
小塚 僕は部屋から、いろんなことをやっているんですよ。まず、部屋の掃除をします。大体ホテルなので、ベッドメークも。最後にカーテンを閉めて出て行く。
辻 初めて聞きました、そんなルーティン。
小塚 ある本に「部屋を片付けると心が整う」と書いてあったんです。それから、バスは絶対に二座席の左側に乗ります。荷物は右の席に置く。そうじゃないと荷物を忘れるから。
辻 ええー!
小塚 僕、一回やらかしてるんです。全日本選手権のときに、ホテルにコスチュームを忘れたことがあって、走って取りに帰ったんですよ。でも走ったらバテちゃって、本番では最後まで持ちませんでした。だから部屋を掃除して奇麗にしてから出ていく。
辻 忘れ物がないように。
小塚 あと、スケートリンクに着いたら、バナナを半分に割ってトレーナーの先生にあげます。
辻 ええっ? トレーナーの先生は、おなかいっぱいでももらうんですか?
小塚 うん。もらわなきゃいけない(笑)。
辻 そんな迷惑な(笑)。
小塚 エネルギー切れが心配で食べるんですけど、一本全部食べるとおなかいっぱいで動きが悪くなるんです。半分がちょうど良かったんですよ。辻選手はそういうルーティンありますか?
辻 僕は試合前に絶対にシャワーを浴びます。それからシューズは左から履いて、靴下は右から履く。
小塚 それをやったから良かったとか、やらなかったから悪かったというのがあったのですか?
辻 高校生のときに全国大会があったんですけど、それまでずっと調子が悪かったんです。それで、ルーティンを持つといいと聞いて「じゃあ一回やってみよう」って感じでやってみたら調子が良くて。その次も調子良かったので、それからですね。
小塚 自分をだますっていうのも大事ですよね。
辻 はい、そうですね。
対談後にフリースローを打つ小塚さん。辻選手がフォームのチェックをし、見事に決めていた 【写真:三浦雄司】
辻 高校生の時の天皇杯で、当時のJBLのチームと戦ったときがベストパフォーマンスだったと思います。負けて当たり前っていう評価だったんですよね。僕らは高校生で、対戦相手は社会人だったので。僕らには失うものは何もないと思って挑みました。そのときに僕、一人で30点ぐらい取ったんです。
小塚 へえ。やっぱり気持ちが押してるほうが強い?
辻 そうですね。コートに立って、ひるんだら負けやと僕は思っていて。自分自身をちょっとでも疑ったりとか、そういうのを考えずに挑めた試合ではいいパフォーマンスができると思います。
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