連載:ドラフトで夢を叶えた選手たち

野球嫌いになった岸潤一郎の逆転ドラマ 徳島での出会いが全てを変える

瀬川ふみ子
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数々の怪我に見舞われ、一度は野球をやめた岸潤一郎(写真中央)。子供たちが野球を楽しむ姿を見て気持ちが変わった岸は、徳島でどんな日々を過ごしてきたのだろうか 【写真提供:徳島インディゴソックス】

 明徳義塾高時代、投げては最速146キロ、打っては高校通算26本塁打の二刀流選手として甲子園に4度も出場した岸潤一郎。プロ志望届は出さず拓殖大に進み、1年春から試合に出場。だが、1年秋のリーグ戦以降、ベンチに入ることはなく、3年時には野球部の名簿から名前が消えた。退部、そして退学した。それから約1年後、再び「岸潤一郎」の名前が世に出てきた。四国アイランドリーグ(IL)plusの徳島インディゴソックスで、野手として再スタートを切っていたのだ。俊足巧打の野手として活躍し、独立2年目のドラフトで、埼玉西武から8位指名を受けた。一度、野球から離れた岸が、再び野球を始めプロ野球選手になるまでのことを、再生の地・徳島で聞いた。

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大学を退学し、大衆演劇に通う毎日

大学を思い切って退学。実家に帰り、何もすることなく、だらだらと過ごした日々を振り返る岸 【撮影:スリーライト】

――「大学をやめた」と聞いたときは驚きました。

 あの時は、野球が嫌いになっていました。怪我をして野球ができていないし、おもんないし(おもしろくない)、しんどいなって。全部投げやりな感じですね。

――高校時代、二刀流として1年夏から4度甲子園に出場し、U-18侍ジャパンにも選ばれ、アジア大会で準優勝。さらに国体で優勝。人から羨ましがれるほどの戦績を残しました。

 とんとん拍子ではありましたね。今、あの頃を思い出すと、遠い昔のことのように感じます。だって、自分、ピッチャーをメインにやっていたんですよ(笑)。自分が甲子園のマウンドに立っていた映像を見ると、「これ、俺?」とか、「俺、こんなんやったんだー」って(笑)。

――大学でも二刀流でスタートしましたよね。

 そうですね。入学前の2月にピッチングをしたとき、肩が軽くて、めっちゃ調子が良かったんです。でも、次の日に起きたら、肩が上がらなくて、そこから肩を痛めて、肘を痛めて、その繰り返し。1年春はDHで試合に出ていて、リーグ戦終盤や入替戦で投げられるようになって。でも、夏に、指導者の方に「肩、痛いんちゃうか?」と聞かれたので、「めっちゃ痛くはないけど、痛いのは痛いです」と伝えたら、メンバーを外れて、そこから一回もベンチには入っていないです。だから、(リーグ戦に)出たのは1年春だけです。

――そこからはどうしていたのですか?

 練習はしていましたし、大学も普通に行って授業も受けていました。2年夏の前ぐらいに、やっとピッチングができるようになって、紅白戦に登板したんです。1人目は三振。でも、2人目のときに、靭帯がピーンとなって、「あーこれは無理や」と。秋にトミー・ジョン手術をすることになりました。そこからまた野球ができなくなって、最初に言ったように、「おもんない」「ほんま無理や」「やめたい」となって……。それでもなかなか言い出せなくて時間は過ぎていきましたけど、3年の夏休みに入ってすぐに(兵庫の実家に)帰りました。

――野球部だけではなく、大学もやめた。

 野球をするために大学に来たのに、「野球をやめたら大学におる意味ないな」とシンプルに思って、「大学もやめよう」と。決めてからは意思が強かったです。誰に何を言われても気持ちは変わらない。これからどうするとかも考えてなかったです。

――実家に帰ってからはどうしていたのですか?

 最初は何もしていないです。小さい頃に大好きだった大衆演劇を毎日見に行っていました(笑)。何もする気力がなくて、今後どうしようとか一切考えたくもなかったし、どうでもいいやと思っていたからこそ、毎日行っていました。周りの人からしたら、「あいつ、血迷ってるんちゃうか」と思われていたと思います(笑)。

橋本コーチが自分のすべてを変えてくれた

徳島に来て本格的にショートに挑戦することになった岸。恩師・橋本コーチの言葉で初めて「本気」で野球と向き合った 【写真提供:徳島インディゴソックス】

――そんな中、どういう流れで野球を再スタートすることになったのでしょう?

 ずっと「もうちょい野球をやってほしい」と言っていた母から、「徳島インディゴソックスの社長が会いたいと言っている」と言われて。「野球なんて嫌いやし、絶対いやや! やらん!」って断っていたんですが、説得されて、社長にお会いした後、しぶしぶトライアウトを受けたんです。それでもまだ野球をやる決心がつかなくて……。

――きっかけになることがあったと?
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