「強くありたい」羽生結弦が抱く思い NHK杯で見せた“求道者”たる姿勢

沢田聡子

SPで高得点も「完璧にはほど遠い」

NHK杯を制し、笑顔を見せる羽生 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 プレッシャーが、羽生結弦をさらなる高みへ向かわせる。

 NHK杯のショートプログラム(SP)、羽生はすべてのジャンプを成功させ、全部のスピン・ステップで最高評価のレベル4を獲得。演技構成点でも5項目すべてで9点台を並べ、109.34という高得点で首位に立った。それでも羽生は「(演技の)出来自体が、自分の中で『完璧だったな』と思うにはほど遠い。『まだ練習が足りない』と突き付けられたと思っています」と口にしている。

 羽生は今季グランプリ(GP)シリーズ初戦・スケートカナダで、自己最高得点となるハイスコア、322.59をマークしている。NHK杯SP後の囲み取材で羽生は、その得点が足かせ、プレッシャーになっているかと問われ「もちろんプレッシャーです」と答えた。

「ただ、今日は『そこそこ頑張ったな』と思ってキスアンドクライに行って、点数が出た時に『ああ、シーズンベストじゃないんだ』と思った。それは『駄目だ、もっとやらなくてはいけない』と思える材料には、絶対になる。そこでとどまらなくて済むのはすごく有難いですし、それをかせではなく糧に、重荷をトレーニングの材料にして頑張りたい」

「弱い自分を見せたくない」

プレッシャーも自身の強さの糧にする。羽生の「強さへの思い」は人一倍強い 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 ショート後のミックスゾーンで羽生は「試合の緊張感にまだ負けているところが多々ある」とも口にしていたが、場所をプレスルームに移しての記者会見で、その発言についての質問がされた。「見ている人々、日本の国民には『羽生選手は強い』というイメージがあるが、羽生としては自分に弱いところがあると知っている。強いイメージはどうやって作り上げていくのか、自然に出てくるものなのか」というものだった。それに対し羽生は「僕も人間なので、弱い時はすごく弱いです」と笑いながら答え、言葉を継いだ。

「ただ、皆さんが強い自分の印象を強く持っていてくださることによって、僕も常に『強くいなくてはいけない』と思っています。やっぱりそれは、ファンの皆さんを含めたスケートを見てくださる方々が『羽生結弦はこうだよね』という姿を期待してくださるからこそ『強くありたい』というふうにも思いますし。

 それは時にはすごくプレッシャーになって、さらに弱い自分がまた露呈してしまうきっかけになることはあるんですけど、ただそのプレッシャーがあるから『強くありたい』って思える。だから多分、人の何倍ものプレッシャーを抱えていると思いますし、それで僕自身皆さんに『強い』と思われているからこそ、自分のことを『弱いな』と思ってしまうんですけど……だから、その弱い自分を見せたくない、強くありたい、とすごく思います」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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