日本の優位性を確認したライバル対決 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(9月30日)

宇都宮徹壱

ライバルたちへの個人的な思い入れ

スタジアムに向かう地下鉄で出会ったスコットランドのサポーター。気さくに撮影に応じてくれた 【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会2019は10日目。サッカーのW杯であれば「残り3週間」といったところだが、ラグビーのW杯はまだ1カ月以上も続く。仮に日本代表が決勝トーナメント進出を決めたら、準々決勝は10月19日か20日。開幕戦の日本対ロシアは9月20日だったから、まるまる1カ月間で5試合も楽しむことができる。ちなみに02年のサッカーW杯での日本代表は、初戦からラウンド16敗退まで15日間で4試合。レギュレーションに違いがあるとはいえ、いささかラグビーがうらやましく思える。

 無論そうなるためには、日本は予選プールの残り2試合でも勝利を積み重ねる必要がある。10月5日に豊田でサモア戦、そして13日に横浜でスコットランド戦。そのライバルたちが、この日、神戸市御崎公園球技場で対戦する。両チームとも第1戦を終えて、ロシアに大勝したサモアは5ポイントの3位、アイルランドとの初戦を落としたスコットランドは0ポイントの4位。ただし、スコットランドが初戦から中7日なのに対し、サモアは中5日と日程的にはやや不利な状況である。

 さてサモアとスコットランドといえば、単にプールAのライバルという以上に、個人的にも思い入れがある。サモアについては2週間ほど前、福島県いわき市での事前合宿を取材したばかり。地元のラグビー少年・少女たちとの交流会では、親身な技術指導と細やかなファンサービスぶりに多くの参加者が感銘を受けていた。「マヌ(野獣)サモア」というニックネームが示すとおり、勇猛果敢なプレーぶりで知られる彼らだが、ピッチの外では茶目っ気たっぷりなジェントルマン。そのギャップが実に魅力的であった。

 一方のスコットランドは、伝統的なタータンチェックに身を包んだサポーターでおなじみ。民族の伝統を大切にしながらも、ビールを大量にあおりながら歌い踊る彼らの姿は、W杯の風物詩にもなっている。残念ながらサッカーの国際大会に出場したのは、1998年のW杯フランス大会が最後。それだけに、21年後に日本で開催されたラグビーW杯でタータン軍団と再会できるのは、実にうれしい限りである。この日は「偵察」の意味合いが強いものの、思い入れのある両チームの対戦だけに、ぜひともいい試合を見せてほしいものだ。

目新しいルールとスコットランドの強さ

地元ファンと記念撮影をするサモアのサポーター。国旗に描かれた星は、祖国の空に輝く南十字星 【宇都宮徹壱】

 試合前、サモアの選手たちが『シヴァタウ』を披露。ひざを叩いて腕の筋肉を誇示するアクションは、どことなくニュージーランドの『ハカ』を想起させる。トンガの『シピタウ』、フィジーの『シビ』はすでに見た。最後に『ハカ』を拝むことができれば、W杯常連国のウォークライはコンプリートできる。それにしても気になるのが、この日のジャージの色。サモアが青でスコットランドは濃紺と、いずれも同系色である。サッカーであれば、必ずどちらかがセカンドを着ることになるが、ラグビーでは問題ないようだ。

 もうひとつ「おや?」と思うことがあった。試合開始早々、サモアのナンバーエイト、ジャック・ラムが負傷でピッチを離れて20番の選手が入る。ところが前半12分になってラムがピッチに戻り、20番は再びベンチに下がってしまった。どういうことだろうと思って、ルールブックの交代の項目を確認。なんと、ラグビーでは「治療のための一時交代」というものが認められていて、15分以内であれば戦列に復帰できるそうだ。これなどは接触プレーが多い、ラグビーならではのルールと言えるだろう。

 さて、試合である。前半8分、グレイグ・レイドローのペナルティーゴールで、いきなりスコットランドが先制。その後はこう着した時間が続くも、29分に意表を突くキックから、さらに初トライを決める。ここでコンバージョンを任されたのは、10番のスタンドオフではなく、9番(スクラムハーフ)のレイドロー。冷静にポールに通して10−0とすると、レイドローは35分にも自らスクラムとゴールを決め、ひとりで12点をたたき出した。さらに38分には、フルバックからのドロップゴールも決まり、スコットランドは20−0という大差で前半を終える。

 その後もスコットランドの優勢が続くが、またしても初めて目にする事案が発生。後半16分、スコットランドのトライの有無をめぐってTMO(ビデオ判定)となり、コンバージョンなしで7点が追加された。これは「ペナルティートライ」というルールで、「ディフェンス側の故意の反則がなければトライが決まっていた」とレフェリーが認めた場合、コンバージョンを省略して7点が入る。スコットランドは後半34分にも、ペナルティートライが認められて7点を追加。そして2つの故意の反則により、サモアのエド・フィドウがレッドカードで退場となる。試合は34−0で、スコットランドが完勝した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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