ご近所でのティア1対決と非日常の光景 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(9月29日)
対戦成績で優位に立つオーストラリア
スタジアムに向かうオーストラリアとウェールズのサポーター。ここだけ切り取ると日本には見えない 【宇都宮徹壱】
この日の取材カードは、オーストラリア対ウェールズ。今大会で初めて観戦する、ティア1(伝統国)同士の一戦である。ラグビーW杯は20チームが出場し、半数を占めるティア1が4つのグループに分かれる。つまり、どのグループにも2チーム以上のティア1が組み込まれ、最低でも2チームの伝統国が予選プール敗退の憂き目に遭うこととなる。サッカーのW杯の場合、グループの2強が仲良くトーナメントに進出するのはよくある話だが、ラグビーW杯では必ずしもそうはならない。必然的に、ティア1対決はガチンコとなる。
ここまで無傷のティア1は、イタリア、ニュージーランド、イングランド、フランス、そしてウェールズとオーストラリア。このゲームで、またひとつ無敗が消える。過去の対戦成績は、30勝1分け11敗でオーストラリアがリード。両チームは15年W杯でも予選プールで対戦しており、やはりオーストラリアが15−6で競り勝っている。今回のウェールズ戦は、ワラビーズ(オーストラリア代表の愛称)にとってW杯50試合目。この記念すべき試合を、ぜひとも勝利で飾りたいところだろう。
一方、「レッドドラゴンズ」の愛称で知られるウェールズ。サッカーの世界では、マーク・ヒューズやライアン・ギグス、最近ではガレス・ベイルといったタレントを生み出しながら、W杯出場は1回にとどまっている。ラグビーのW杯では、1987年の第1回大会で3位に輝くも、予選プール敗退は英国4協会では最多となる3回。今大会では、決勝トーナメント進出はもちろん、2大会ぶりのベスト4進出を狙いたいところだろう。その最初の関門となるのが、相性の悪いオーストラリアとの直接対決である。
キックを多用するウェールズとパワーのオーストラリア
近所の駅からシャトルバスに乗って東京スタジアムへ。およそ1時間で祭典の会場に到着することができた 【宇都宮徹壱】
それにしても、ここまで5試合を見ていて感じるのが、最近のラグビーはキックを使ったプレーが多いことだ。何となく視界に入っていた、80年代の攻撃のイメージは、やはりランとパス。キックについては、コンバージョンやペナルティーなどに限られていたように記憶する。ところが最近のラグビーは、スピードやパワーだけでは相手の包囲網を突破できない。ゆえに前方にキックすることで、アンストラクチャー(相手の陣形が整っていない状態)を作って打開を図る。この試合のウェールズが、まさにそうだった。
後半早々、ドロップゴールでウェールズがリードを広げる。しかしここからワラビーズが底力を発揮。後半5分にはトライとコンバージョンを決めて、ようやくスコアを2桁とする。そして21分にもトライとゴール、さらに5分後にはペナルティーゴールで得点を重ね、25−26と1点差にまで詰め寄った。オーストラリアのトライは、いずれも相手陣内でのモールから生まれたもの。重量とパワーを前面に押し出してくる相手に対し、ウェールズのよりどころとなったのはやはりキック。戦局挽回のパントキック、さらに後半31分にペナルティーゴールが決まり、ウェールズが4点差で逃げ切りに成功した。
ファイナルスコアは25−29。ウェールズがW杯でオーストラリアに勝利するのは、32年前の第1回大会以来となる。当然、敗れたオーストラリアは面白くなかろう。試合後の会見でマイケル・チェイカHCは「非常に理解に苦しむ。ルールのことが分からなくなった」として、レフェリーへの不満を口にしていた。「ラグビーはサッカーと違ってレフェリーに異議を言わない」とされる。しかし実際には、重いペナルティーが課せられるため、「言わない」のではなく「言えない」というのが正しいようだ。プレーヤーとレフェリーとの葛藤は、実はサッカーもラグビーも変わりはないのかもしれない。