サニブラウンの走りに「決勝」の力を見た
伊東浩司氏が100m日本3選手を解説
悲願の決勝進出はならなかった(左から)桐生、サニブラウン、小池。3人の予選、準決勝の走りがどうだったのか、伊東浩司氏が解説
悲願の決勝進出はならなかった(左から)桐生、サニブラウン、小池。3人の予選、準決勝の走りがどうだったのか、伊東浩司氏が解説【写真は共同】

 出場した3人が準決勝に進み、悲願の決勝進出への期待がかかった8月28日(日本時間29日)の陸上の世界選手権・男子100メートル準決勝。今季世界リーダーのクリスチャン・コールマン(米国)が向かい風0.3メートルの条件の中で9秒88を出してトップ通過。2番手以降は10秒0台から1台が決勝進出ラインになった中で、日本勢は惜しくも決勝進出を果たせなかった。

決勝に残っておかしくない選手と証明

 予選では第6組3位通過ながらも、全体では8番目のタイムとなる10秒09で準決勝に進んだサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)。同種目の元日本記録保持者である伊東浩司氏はその走りをこう見る。


「サニブラウンは予選はリラックスした表情で臨んでいましたが、ラウンドを進めることを考えた取り組みだったと思います。その状態でも10秒0台のタイムを出した結果を見れば、全体を見回しても、決勝には確実に残れるのではないか、ということを確信できる走りでした」


 準決勝では少し表情も硬くなっていたが、伊東氏は「あえて表情を硬くしていたようだが、まだそこまでは集中していなかった」という。本人も決勝を意識して気持ちを高めていく途中だったのだろう。


 だが予選に続いてコールマンと一緒だった準決勝は9レーン。サニブラウンは「ピストルの音が全然聞こえなかった」と大きく出遅れ、10秒15で5着にとどまり、その時点で決勝進出の可能性はなくなった。


「前回の世界選手権でも準決勝はスタートで失敗していたので、そこがこれからの課題かなというようにも思いますが、今回は機械の不具合もあったので……。ただ、リアクションタイムを見てみれば、普通に出ていたなら余裕を持って決勝に進めていたかなという走りでした。映像を見ていても、前半は他の選手に体ひとつ遅れている状態でしたが、中盤から後半にかけては走りもしっかり立て直し、2着になったアーロン・ブラウン(カナダ)とも0秒03差のところまで来ていたので……。その区間を見れば、決勝に進んでいる選手とはそん色ない走りをしている。今は世界のどのコーチが見ても、決勝に残っておかしくない選手だと思うような世界に完全に入っているかなと思います。準決勝では中盤から後半の走りで、それを証明していたと思います」(伊東氏)

小池は「少し歯車がかみ合っていない」

伊東氏は、歯車が合っていないように見えたという小池。世界の舞台での場数が今後の課題か
伊東氏は、歯車が合っていないように見えたという小池。世界の舞台での場数が今後の課題か【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「腕がプルッと動いてしまったので、フォールスタート(フライング)を取られると思って思い切り出られなかった」と、10秒28で第2組7着になった小池祐貴(住友電工)。伊東氏は「予選から何かひとつ歯車が合わせられなかったのではないか」と見ている。


「準決勝はスタートがうまく固まらず、緩い動きをしたところでそのまま出るような形になってしまいましたが、通常のスプリンターが、ましてや世界選手権の準決勝という舞台だとよほど飛び抜けた力を持った選手(9秒7、8の選手)ではない限り、立て直すのが難しい形になってしまったと思います。8月のヨーロッパ遠征から少し歯車のかみ合わないところも出ていたかもしれませんが、それも国際大会へ行くようになると誰もが通る道だと思うので、そこは経験を積んでいくしかないと思います。ただ、今回はうまくかみ合わなかった歯車というのも、200メートルやリレーの1走などでかみ合えば、すぐに本来の力も出るようになるのではと思います」

有意義なレースだった桐生

桐生の走りを評価した伊東氏。「次が楽しみ」なレースだった
桐生の走りを評価した伊東氏。「次が楽しみ」なレースだった【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 予選は10秒18でのプラス通過、準決勝第3組では10秒16で6着だった桐生祥秀(日本生命)に関しては、伊東氏はいい雰囲気が出てきている走りだったと評価する。


「準決勝では彼本来の持ち味である中盤の加速も見せて、60メートルくらいまではきちんとトップくらいにいた。これで東京五輪へ向かって、しっかり腰を据えて、余裕を持ってトレーニングできるんじゃないかなという走りでした。


 今までは記録を持っていたので、記録を出さなくてはいけないというプレッシャーなどもあったうえ、なかなか100メートルで世界大会に出るチャンスも少なかった。しかし、これからは彼が高校生の時に見せていたような輝きを出してくるのではないかと思います。


 今回、意識としてはどっぷりと勝負の世界に入っているような感じなので、出した記録より有意義なレースだったのではないかと思います。準決勝もこれまでなら硬くなるイメージがありましたが、今回は最後まできちっとトップ近辺で競り合っていたし、正面から見た映像でも高校時代のように歯を食いしばって走る姿も見せていました。無我夢中で100メートルを走ったという表情だったので、次が楽しみです」

折山淑美

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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