サニブラウンにまたも“スタートの悪夢” 走りには手ごたえも、出遅れ取り戻せず

スポーツナビ
 陸上の世界選手権2日目が現地時間28日にカタール・ドーハで行われた。男子100メートル準決勝では、日本記録保持者のサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)が登場。スタートで大きく出遅れると、必死の巻き返しも及ばず、10秒15で1組5着(向かい風0.3メートル)で敗退。2017年のロンドン大会に続き、2大会連続で準決勝の舞台で姿を消すこととなった。

 桐生祥秀(日本生命)は10秒16で3組6着(追い風0.8メートル)、小池祐貴(住友電工)は10秒28で2組7着(向かい風0.1メートル)となり、いずれも敗退。日本勢は全員が準決勝で敗れた。

後半に巻き返すも、0秒03差で涙を飲む

スタートで出遅れたサニブラウン。奥の選手と比べても反応の遅さが分かる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 100メートルの準決勝には“魔物”が潜むのか。思わずそう感じずにはいられなかった。2大会連続の“悪夢”に、サニブラウン本人も「最初は何が起こったのか分からなかった」と、驚きの表情で振り返った。

「『鳴ったかな?』と思うくらい、(ピストルの)音が聞こえなくて。何が起こっているか分からなかったけど、とりあえず走るという感じでした」。精神状態としては「やる気満々でした。今日は結構集中していたと思います」と特に問題はなく、気合に満ちあふれていた。だが、「ずっとマイクの雑音みたいな、ザーッという音が聞こえていて、誰かが小声で『ハッ』というのも聞こえた」。極限まで研ぎ澄まされた集中力が、普段なら聞こえないような音を感じ取らせてしまったのだろうか。

 スタートのリアクションタイムは、同組の中で最も遅い0秒206。完全に出遅れる形となった。中盤以降は190センチの長身を生かした伸びやかな加速を取り戻し、懸命に前を追いかけたが万事休す。準決勝通過ラインとなった10秒12にはわずか0秒03及ばず、涙を飲んだ。

 2年前のロンドン大会の準決勝でも、スタート直後につまずくまさかのアクシデントがあり、10秒28で敗退。今回も、普段ではまず起こらないようなミスが起きてしまった。2大会続けての出来事に、「200メートル(の準決勝)では全然大丈夫ですし、100メートルに何かあるのかもしれませんが、どうなんですかね……」と、思わず首をひねった。

視線は早くもリレーへと向かう

レース後は悔しい表情を見せたサニブラウン。4走予定のリレーへ、切り替えが必要になる 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 それでも、走りの内容自体には手ごたえも感じている。「横にぶれることなくしっかり直線上に出て、1歩1歩加速し続けろとコーチから言われていた。音に反応できなかったとはいえ、少しはそれができたので、中盤から後半の追い上げは良かったですし、そこは自信につながりました」。

 今大会は、今年特に力を入れてきた100メートルで結果を残すために、前回史上最年少で決勝に進出した200メートルの出場を回避した。そこまでこだわった種目で消化不良の結果に終わってしまったが、本人は「久々にオフがもらえるので、少し休もうかな」とおどけてみせた。すでに気持ちは切り替えている様子だ。

 現地時間4日の大会8日目には、4×100メートルリレーが控えている。土江寛裕五輪強化コーチは、すでにサニブラウンを4走で起用する方針を明言。アクシデントがなければ、日本記録保持者のリレーデビューはほぼ間違いない。「ここで(ネガティブな気持ちを)切り替えなかったら、リレーも全然ダメになってしまう。あまり気負わず、バトンを何とか合わせていければいい」と、今度はチームのために全力を尽くす。

 100メートル準決勝の約3時間30分後に行われた決勝では、場内の照明が消え、ファイナリスト8人の名前がレーン上にライトアップされる、ど派手な演出が施された。そんな中、クリスチャン・コールマン(米国)が9秒76(追い風0.6メートル)の今季世界最速タイムで駆け抜け、世界王者の称号を手にした。日本最速の男が100メートルのファイナリストになるチャンスは来年の東京五輪に持ち越されたが、まだ今大会での見せ場は残っている。今度こそ持っている力を出し切ることができれば、また1つ世界のトップに近づけるはずだ。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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