ライトファンでもラグビーW杯を楽しむ術 今大会の日本には「期待していい」

宇都宮徹壱

日本はグループ分けに恵まれた?

日本のプールに優勝経験国がいないのは有利と言える 【写真:ロイター/アフロ】

 今大会、日本が入ったプールは、ロシア、アイルランド、サモア、スコットランドとなりました。対戦相手に比較的恵まれたと言えるでしょう。これがオールブラックス(ニュージーランド代表)とかになると「絶対に無理!」と思ってしまいますけれど、ティア1ということだとアイルランド(世界ランキング1位)とスコットランド(同7位)。強いことは間違いないですけれど、どちらも優勝経験はありません。W杯の優勝国はニュージーランドが3回、オーストラリアと南アフリカが2回ずつ、イングランドが1回、それだけです。

 W杯は過去8大会開催されていますが、優勝経験があるのは実は4カ国しかない。ヨーロッパではイングランドだけ。今回は日本のプールに優勝経験国がいないというのは、ものすごくラッキーなんですよね。初戦の相手は20位のロシアですが、日本は10位ですし、セットプレーで負けなければ勝てるでしょう。そして2試合目がアイルランド。これがまた絶妙なんですよ。というのも、アイルランドの初戦の相手はスコットランド。しかも、インターバルが日本より2日少ない。

 明らかに、日本にとっては有利ですよね。しかもスコットランドに勝っていれば、アイルランドに緩みが出るかもしれないから、決してノーチャンスというわけではないと思います。その次のサモアは16位ですが、相手にリードされるとカッカしてラフプレーも多くなる傾向があります。冷静に対応して、きちんとボールを回すラグビーをやれば勝てる相手だと思います。そして最後がスコットランド。やっぱり強いですよ。伝統国だし、FWもしっかりしているし、そんなに甘い相手ではないです。

 ただし、向こうは中3日なのに対して日本は中7日。日程的には圧倒的にこっちが有利です。それと会場は横浜国際(総合競技場)ですよね。6万人が圧倒的なホームの状況を作り出せれば、必ず日本のホームアドバンテージになりますよ。サッカーもそうだと思いますが、ラスト20分でしんどい時でも、ファンの声援が後押しになって動けるようになるんです。しかも、この試合の勝者が決勝トーナメントに進出するというシチュエーションになれば、日本にも多少の分はあるんじゃないかと思います。

日程的にもかなり恵まれた日本

松瀬さんは「彼がゲームを作っている」と田村の重要性を説いた 【写真:アフロ】

 今大会の日本は対戦相手だけでなく、日程的にもかなり恵まれました。ロシア戦からアイルランド戦までが中7日、サモア戦までが中6日、スコットランド戦までが中7日。前回大会は南アフリカに勝って、中3日でスコットランドでしたからね。ラグビーはサッカーと比べると、リカバリーに時間がかかるんです。ですから最低でも4〜5日はほしい。そうして考えると、今回の日程は日本にとってパーフェクトですよ! 1週間あれば、多少のけががあっても十分にリカバリーが可能ですから。

 日本がベスト8に進出する条件ですか? 何といっても、けが人が出ないことですよね。何人か代えが利かない選手がいるのですが、その筆頭がスタンドオフの田村優。彼がゲームを作っていますからね。相手はどこもコンタクトが強いので、日本としてはアンストラクチャー(相手の陣形が整っていない状態)を作って、エリアができたところに蹴っていく戦術です。そのエリアマネジメントとキックを担っているのが、田村という選手。彼がけがをしたら、バックアッパーはいるにはいますが、ちょっと厳しくなりますね。

 それでも今回の日本代表は、歴代のW杯メンバーで最もフィジカルが強い選手がそろっています。海外出身の選手が31人中15人。南アフリカ生まれの松島(幸太朗)も含めたら、過半数の16人ですよ。前回大会はボールを早く動かして、フィジカルの部分を運動量でカバーしていました。今回はコンタクトフィットネスが強い選手が多いので、ボール争奪戦ではあまり負けるイメージがない。これは大きいと思います。

 日本の戦い方も、前回とは大きく異なります。エディ(・ジョーンズ)さんのラグビーはポゼッション重視。今回の監督、ジェイミー(・ジョセフ)さんは、さっきも言ったようにアンストラクチャーを作って、コンタクトなしでエリアを稼ぎながら攻撃を仕掛けるラグビーです。これはあくまで「上を目指す」ための戦術なんです。4年前は「頑張ってベスト8」という戦い方でしたが、今回はトーナメントを勝ち上がることを考えたラグビーです。前回のようにノーマークとはいかないですし、決して甘いものではないですけれど、それでも今回の日本はある程度は期待していいと思います。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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