サモア代表にいわきFCが協力した理由 「三方良し」のラグビーW杯事前キャンプ

宇都宮徹壱

サッカーでは「弱小国」、ラグビーでは「W杯の常連国」

いわきで事前キャンプを行ったサモア代表。交流会の最後には感謝の歌と踊りを披露した 【宇都宮徹壱】

 日本でのラグビーワールドカップ(W杯)開幕まで、あと2日。9月20日に東京スタジアムで行われる、日本対ロシアが開幕戦となるわけだが、その後の日本の対戦相手をご存じだろうか。伝統国であるアイルランド(2戦目)やスコットランド(4戦目)は出てきても、3戦目の相手がサモアであることを知っているのは、もしかしたら熱心なラグビーファンだけなのかもしれない。今回は、そのサモアに関する話題である。

 私の本来のテリトリーであるサッカーの世界では、米領サモアもサモア(かつては西サモアと呼ばれた)もオセアニアの弱小国。前者に至っては、かつてオーストラリアとのW杯予選で0−31という国際Aマッチ史上最大点差の敗戦を喫している。ところがラグビーの世界でのサモアは、トンガやフィジーと並ぶこの地域の強豪。しかも人口はわずかに20万人弱である。昨年のサッカーのW杯では、人口約33万人のアイスランドが「小国」と呼ばれていたが、それよりさらに小さな島国が、ラグビーW杯の常連となっているのだ。

「マヌ(野獣)・サモア」の愛称で知られるサモア代表は、1991年の第2回W杯以降はすべての本大会に出場し、2回ベスト8進出を果たしている(91年、95年)。ちなみに日本とは、過去のW杯で2回対戦していて1勝1敗。99年大会では9−43とまるで歯が立たなかったが、前回の15年大会では26−5とリベンジを果たしている。直近の世界ランキング(9月9日発表時点)では、日本が10位でサモアが16位。初の決勝トーナメント進出を目指す日本としては、サモアは絶対に負けられない相手となる。

 そんなサモアに私が関心を抱いたのは、福島県いわき市で彼らが事前キャンプを行うという情報が入ってきたからだ。しかもトレーニングを行うのは、いわきFCの施設である。いわきFCは現在、JFLの下の東北リーグ1部所属(つまり5部相当)。「日本のフィジカルスタンダードを変える」というテーゼのもと、ボールを使った練習よりもストレングストレーニングに力を入れるという、ユニークな方針で知られる。そのいわきFCの施設を、ラグビーW杯に出場するサモア代表が利用する。何と意外性のあるカップリングであろうか!

いわきFCパークで見たサモア代表との交流会

グループに分かれて公開レッスンをするサモアの選手たち。子供たちの表情も真剣そのもの 【宇都宮徹壱】

 9月10日に来日したサモア代表が、いわき市に滞在するのは15日まで。7日にシドニーでオーストラリアとのテストマッチを行い(結果は15−34の敗戦)、いわきではリフレッシュと環境順応を主目的とした事前キャンプという位置づけである。その後、彼らは山形に移動し、そこで最終調整を行ってから24日のロシアとの初戦に臨む。もっとも事前キャンプとはいっても、練習は原則非公開。彼らを取材できるのは、地元のラグビー少年・少女たちとの交流会が行われる14日の午前のみであった。

 そんなわけで、いわきFCパークを久々に訪れてみたのだが、まず驚いたのが参加者の多さ。小中学生が約100人、高校生が約70人。「実はいわきは、福島県でもラグビーが盛んなんですよ」と教えてくれたのは、いわき市の文化スポーツ室室長、津田一浩さんである。津田さんいわく「市内にはラグビー部がある高校が4校、小中学校のラグビースクールが2つあります。県内から花園(全国高校ラグビー大会)に行くのは、決まっていわきの高校だった時代もありましたね」。なるほど、納得である。

 やがて予定時刻から10分ほどが過ぎて、サモア代表の面々がフィールド上に姿を現す。当然ながら、皆デカい。首回りはライオンのようだし、両腕は丸太をぶら下げているようだし、胸板も背筋もまるで鋼のよう。普段サッカー選手に接していた身からすると、ただただ圧倒されるばかりである。とはいえポリネシアン気質ゆえか、選手たちは一様にフレンドリーで、こちらがカメラを向けるとにっこり笑ってピースサインしてくれる。実に茶目っ気たっぷりな男たちである。

 セレモニーのあと、いくつかのグループに分かれてサモアの選手たちによる公開レッスンが始まった。パスの練習をしたり、ボールのリレーをしたり、鬼ごっこをしたり、参加者の年齢に応じたメニューが組まれている。サモアの選手たちは一緒にプレーしながら、時おり通訳を介して英語でアドバイス。遊び心を感じさせながらも、指導するときは真剣そのものなので、子供たちも神妙な表情で何度も頷く。

 最後は2人のサモアの選手が、タックルのデモンストレーションを披露。まず地元の高校生がクッションで受けて、次にサモアの選手たちが高校生のタックルを受けると、体重が2倍以上ありそうな巨漢がゴロリと倒れる。たぶん演技なのだろうが、そう悟らせない気遣いのようなものが感じられた。そして記念撮影ののちに、サモア代表が感謝の気持ちを表す歌を唱和。さらには時間が許す限り、ツーショット撮影やサインなどのファンサービスに応じていた。参加したいわき市民は、すっかりサモアびいきになったはずだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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