パ新人王を争う2人の若鷹、その特徴は? 攝津正氏「周りを気にしないで」とエール

ここまで11勝をマークし、チームを支えている高橋 【写真は共同】

 2019年のパ・リーグにおける新人王の筆頭候補は、福岡ソフトバンクの2年目・高橋礼。ペナント奪還を目指すチームでローテーションを守り続け、すでに2桁勝利を積み上げた「令和のサブマリン」だ。そして、対抗馬は同じソフトバンクでセットアッパーを務めるルーキー・甲斐野央。どちらかが新人王となればチームでは2009年の攝津正氏以来となるが、その先輩・攝津氏本人に、このふたりについて話を聞くことができた。

下手投げの存在がチーム全体に好影響

攝津正氏は高橋と甲斐野をどう見たか? 【写真:パ・リーグインサイト】

 まずは「絶滅危惧種」のサブマリン・高橋について。アンダースローと言えば、元千葉ロッテの渡辺俊介や、元埼玉西武の牧田和久らが思い浮かぶだろう。身長はともに170センチ台だった2人と比べると、高橋は188センチと非常に長身で、ストレートの最速は146キロと上から投げる投手にも負けていない。攝津氏はそんな右腕のことを「今までにあまりいないタイプ。球筋がサブマリンっぽくないんですよね。球が浮き上がってそのまま来るイメージですよ」と表現する。

 こうなれば、バッターにとっては実に厄介な存在だろう。しかしその希少性が発揮されるのは、高橋自身とバッターの一対一の勝負の場だけではない。攝津氏は「高橋がローテーションにいると、右、左、サブマリンの3パターンになります。球筋がまったく違うので、(一戦ごとに)大きな差をつけられます。キャッチャーも1カードを考えて配球を組むので、オーソドックスなピッチャーばかりより、チームは助かりますね」と、その存在がチーム全体に影響を及ぼしていると語る。
【動画】THE FUTURE PLAYER 高橋礼

(映像:パーソル パ・リーグTV)

 また、このようなデータがある。前半戦、高橋は登板した10試合で7勝を挙げ、そのうち実に7試合で、前半戦終了時のパ・リーグ平均試合時間3時間22分を下回った。特に今季初登板から2試合連続で試合時間が3時間を切っており、福岡ソフトバンクは高橋が作るペースに引っ張られて、良いリズムに乗れたのかもしれない。

 テンポの良い投法と言えば、平均投球間隔が最も短い投手に贈られる「スピードアップ賞」を、2016年から2年連続で受賞した牧田の名前が挙がる。ただ、攝津氏は「アンダースローだからというより、意識的に早くしていると思います」と言う。

「テンポが早ければバッターの考える時間がなくなりますし、タイミングもずれます。(高橋は)投げ急いでボール先行にはならないように『ボールを投げる前から勝負だ』という意識をしっかりとしていると思いますね」

 データから高橋礼投手の得意分野・苦手分野を見ていくと、直近の課題も明らかになった。通算の球場別防御率は楽天生命パーク宮城で1.83、ZOZOマリンスタジアムで2.70だが、札幌ドームでは6点台、メットライフドームでは4点台に近い防御率だ。攝津氏はこのデータ通り「サブマリンとZOZOマリンの風は相性が良い」と明言する。

 海に面したZOZOマリンは、上空では外野から内野へ向かって風が吹いている。その風はバックネットで跳ね返り、ピッチャーは常に向かい風を受けている格好になる。攝津氏によると、「上から投げるピッチャーだと、風を正面からまともに受けるので変化球がベースまで届かないような感覚があります。実際、僕もカーブを投げる時は投球練習から苦労していました。ただ、高橋礼投手のような低い位置から上へ投げるボールは、風の影響により大きく吹き上がる傾向があります」。大きく浮き上がるボールを利用して投球に目線の差をつけられるなど、屋外球場におけるサブマリンは効果的なようだ。今シーズン8勝17敗でロッテに負け越しているソフトバンクには心強い話だろう。

 反対に苦手とする球場は「札幌ドームはマウンドが高く、メットライフドームは硬い。データ的には高くて硬いマウンドは苦手のようですね」と分析した。9月11日、負ければ首位陥落となる西武との天王山がメットライフDで行われたが、先発した高橋礼投手は6回3失点で敗戦投手となり、本人も「ストレートも変化球も調子は悪くなかった。ボール球を使ったりリズムを変えたり、変化をつければ良かったです」と降板後に振り返っている。クライマックスシリーズで登板する可能性もある敵地と新人王最有力候補の相性は、今後どう作用するか、注目が集まりそうだ。

【動画】マルチアングルで見る 高橋礼 「風を味方につける男」編

(映像:パーソル パ・リーグTV)

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