パ新人王を争う2人の若鷹、その特徴は? 攝津正氏「周りを気にしないで」とエール

高橋とは対照的な甲斐野

 一方、ドラフト1位で東洋大から入団した甲斐野はデビュー戦から13試合連続無失点のプロ野球記録を打ち立てた。高橋は反対にオーソドックスなフォームで、試合終盤を主戦場としている。速球と落ちる球のコンビネーションで打ち取る本格派であるところも、高橋とは対照的。プロ野球史上唯一、沢村賞と最優秀中継ぎを受賞している攝津氏は「常時150キロ中盤をあの球威で投げるピッチャーはなかなかいません」と称える。

 ただ「ストレートがシュート回転しているので、決め球のフォークや変化球の質は今後もっと重要になってきます。先発であれば調子の悪い球をあえて遊び球として使うこともありますが、中継ぎは15球前後で1イニングを投げるので基本的に(調子の)いい球だけを投げます。選択肢の幅という観点で、球種は増えた方が楽になりますよ。さらに上に行こうとするなら、そういう変化も必要だと思います」とアドバイスを送った。
【動画】甲斐野央のストレートまつり

(映像:パーソル パ・リーグTV)

 また、甲斐野の特徴としてはフィールディングの良さも挙げられる。「投げ終わってからの形が比較的ちゃんとしているので、フィールディングの安定につながっているのかなと。僕はあまり得意ではありませんでしたが……。甲斐野投手は、身体をコンパクトに使っていますね。投げ方も外回りしていませんし、(高校時代の)野手としての経験が生かされていると思います」。続けて、「フィールディングは中継ぎ投手の重要な要素です。1点も与えられないピンチの場面だと、自分の守備も使える投手はベンチの安心感にもつながるので」とも言及した。

5月9日の楽天戦、サヨナラ打を浴びた甲斐野(左奥)の肩に手を乗せてかばう松田宣 【写真は共同】

 中継ぎとしての適性を持つ甲斐野だが、まだ1年目ということもあり、今後は先発登板の機会が巡ってくる可能性は十分あるだろう。ルーキーイヤーから、中継ぎとして70試合を投げた攝津氏自身も、当時から先発転向の話はあったそう。ただ、「中継ぎは試合が多くて、次の登板までのスパンが短いのですぐに切り替えができる。僕の性格としては、(中継ぎの方が)好きでしたね」とのことだった。

 しかし、1年目からうまくその切り替えができていたわけではない。甲斐野は5月、楽天戦に登板3試合連続で失点し、3試合目ではサヨナラ打も浴びたが、攝津氏も「僕も同じ(1年目の)5月が苦しい時期でした」と振り返る。「(5月は)自分のペース配分や相手の傾向が分かってきて、それを踏まえてやっていきますが、本当に成績が上がらない。何とか抑えて自信を取り戻すという感じでした」。5月9日の楽天戦、銀次からサヨナラ打を浴びた甲斐野に松田宣浩が寄り添う姿は印象的だったが、攝津氏も「(苦しい時期は)チームの先輩から声をかけてもらったり、ご飯に連れて行ってもらったりした」そうだ。

 一方で、守護神の森唯斗が故障で離脱した6月から7月にかけては、逆にその苦しい時期を乗り越えた甲斐野が代役を務めた。甲斐野にとっては大抜てきであり、その間に8セーブを挙げているが、森にとっては危機感を煽られる起用だったことは間違いない。「ホークスはそういうチーム。競争があるから、モチベーションにもつながると思います」と攝津氏が思い返す通り、ソフトバンクの選手層の厚さ、フットワークの軽さとともに、その中で繰り広げられる定位置争いの厳しさがよく表れた出来事でもあった。

【動画】THE FUTURE PLAYER 甲斐野央

(映像:パーソル パ・リーグTV)
 独特なフォームでバッターを惑わし、チームの戦略上も大きな役割を果たす高橋。豪速球を武器に1年目で勝ちパターンに定着し、守護神も任された甲斐野。ふたりが新人王の候補に挙がったことからも、ソフトバンクのチーム内競争のレベルの高さはうかがい知れる。新人王の、チームの大先輩として、ふたりに声をかけるなら? 攝津氏は「あまり周りを気にしないことが大事ですよ。ただ僕は、受賞前に周りから散々(新人王のことを)言われて、やめてほしいと思っていましたが、あまりに言われるから慣れたようなところはあると思います」と笑って答えてくれた。

 すでに常勝軍団の主戦としてフル回転するふたりの右腕は、現状、覇権奪還への道筋のみを見据えているところだろう。決して油断はできないレギュラーシーズンの佳境。変わらぬチームへの貢献の先に、一生に一度の名誉が待っている。

構成:「パ・リーグインサイト」馬塲呉葉

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