「スピードへの回帰」を目指す田中恒成 自分の良さを見つめ直し、取り戻す防衛戦
「重心」を戻す作業を繰り返し反復
8月初旬、兄・亮明(写真左)との公開スパーリングが話題を呼んだ。挑戦者と同じサウスポーである兄と拳を交えたが、そのテンポの速さを体感できたことも大きな収穫だった 【写真は共同】
「まずパワー寄りになったときの重心の置き方、以前の置き方がどうだったのかを頭で理解させました。その上で恒成に『前の動きはできる?』と聞いたら、『頑張らないとできないです』と。そこから本人がしっかり(重心の置き方を)意識しながら、体が覚えるまで繰り返し反復してきたということですね」
ジムワークで徹底的にたたき込んだものを、フィリピンでのスパーリング合宿を含めた実戦練習で落とし込み、再び自分のものにした。東京五輪を目指すトップアマチュアの兄・亮明(岐阜・中京学院大中京高教員)とのスパーが話題となったが、3ラウンドの短期決戦で戦うアマの、それもトップレベルのテンポの速さを体感したことは、サウスポー対策以上に意義深かったはずである。
「今は意識しなくてもスピードが出せるようになって、もう身に付けた状態まで戻ったと思います」(河合トレーナー)
5月下旬に開かれた発表会見の時から、何度も繰り返してきた田中の言葉に力が込められた。
「スピードのある相手をスピードで圧倒して、必ずKOします」
挑戦者もスピードが持ち味
挑戦者のゴンザレスも田中と同様に、スピードが持ち味のボクサーだ 【船橋真二郎】
それから8年4カ月、指名挑戦者として堂々つかんだ初挑戦のチャンス。20日の公開練習では、ルイストレーナーとのミット打ちなどで、俊敏な足さばきとハンドスピードを見せ、田中も評価する速い動きを披露した。それでも「恒成の爆発的なスピードに、ついてこれるとは感じない」という河合トレーナーの一言がすべてを表す。
「なので、あとは恒成の仕上がり次第なのかなと思いますね。ここまでは順調に来たので、最後の体重調整から試合までの回復まで、しっかり仕上げきれるか」
「スピードとパワーを切り替えるスイッチ」を手にしたら…?
田中のフィジカル面をサポートする河合トレーナー(写真左、青のジャケット)。「スピードとパワーを切り替えるスイッチ」を手にした時、田中のボクシングというものが見えてくるのかもしれない 【船橋真二郎】
ミニマム級からスタートし、ライトフライ級、フライ級と階級を上げていく過程で筋肉量を増やし、パワーを身に付けてきた。今回、本来のスピードを取り戻すからといって、そのパワーを捨てるわけではない。
「スピードを出す時はどういう重心か、パワーの時はどういう重心か、恒成自身がしっかり理解し、使い分けられるようになってきました」
まずは武器の「スピード」で主導権を握る。「パワー」を織り交ぜながら、フィニッシュは、たとえば「スピード」に乗ったカウンターか、あるいは「パワフル」なコンビネーションか――。
以前、「自分のボクシングと言われても分からないし、まったく見えない」と、田中が話していたことがある。スピードを取り戻し、「スピードとパワーを切り替えるスイッチ」(河合トレーナー)を手にした時、田中本人にも、われわれにも、その姿が見えてくるのかもしれない。