本気で取り組みながら、春の大会でめった打ちを食らい、自信を失い、フィールディングもうまくできなくなった。東海大菅生で3年生となった高橋優貴は、最後の夏を前に、練習中、一人隠れて涙するほどどん底に落ちていた。

　だが、そんな高橋に、若林弘泰監督がこう声をかける。

「お前の球が一番いいんだ。いい球を持っているんだ。自信を持ってやっていけばいいんだよ」と。

　今まで「お前のせいで負けてるんだ」「お前が情けねーからだ」と何度も言われてきた高橋だが、この監督の言葉に身震いするほどグッときたという。

「自分に絶対的な実力があるわけではないってことは分かっていましたが、『お前の球が一番いいんだ』と言ってもらえて、気持ちを強く持てたというか。夏の大会前だし、ここまできてキツイ言葉でどん底に落とすこともない、と思って言ってくれたのかもしれないですが、自分にとっては本当にグッとくる言葉で……。

　それを言われたとき、自信を持ってやろう、こんな弱いままじゃダメだ、強くなって、絶対に若林監督を甲子園に連れて行きたい、選手としてずっと迷惑をかけてきた分、一番いいところで、監督に恩返しをしたい、何とかしたいって思いました。1年夏から試合で投げさせてもらっている責任があるし、やらなきゃ！と。ずっとそう思っていたんですが、一番強く思ったのがそのときでした」

　褒めることも、優しい言葉をかけることもめったにない、厳しい若林監督から放たれたこの言葉に、高橋は一気に火がついた。そして、夏の大会前の練習試合では、142キロをマーク。高橋は背番号10ながら、最高の形で2014年夏の西東京大会へと突入していった。