バルサが認めた安部裕葵の「個性」 日本屈指の若きテクニシャンの可能性は?

元川悦子

コパでの学びを弾みにできるか

ジーコや本山雅志が背負ってきたエースナンバー10としては、まだまだ結果を残していない状況だ 【(C)J.LEAGUE】

 ただ、現時点ではバルサのトップチームに定着できる保証はない。原則2年間はバルサB(3部)でプレーするという報道もあるように、し烈なサバイバル競争を強いられることになるのだ。スペインで小中学校時代を過ごし、教育も受けた久保はすでに言葉や文化に適応していて、新たな環境にスムーズに順応できると見られるが、安部の場合は違う。1からスペイン語を学び、生活習慣に慣れ、新たなサッカー観を理解し、実践していかなければならない。それだけハードルが高いのは間違いない。

 もう1つの懸念材料は、ここ最近の本人のパフォーマンスだ。Jリーグベストヤングプレーヤー賞に輝いた昨季に比べると、今季の安部は不完全燃焼な状態が続いている。J1ではここまで13試合に出場しているが、スタメンはわずか6試合。ゴールも1点にとどまっている。白崎凌兵や中村充孝といった同ポジションのライバルにスタメンの座を譲るケースも増えている。

 大岩剛監督も天皇杯・北陸大戦後に「時差ボケであったり、コンディションの不良を差し引いても、チームとして目指しているところ、彼自身が目標としているところを考えた時に非常に物足りなさが残った」と苦言を呈したといい、かつてジーコや本山雅志が背負ってきたエースナンバー10としてはまだまだ不十分と言わざるを得ない状況だ。

 A代表の方でも、コパ・アメリカに全3試合に出場し、ウルグアイ戦は先発でピッチに立ったが、2ゴールをマークした三好康児らに比べるとインパクトは薄かった。

「相手の囲んでくるスピードがメチャクチャ速かったので、そこをはがせればチャンスになるだろうと思っていた。あえて狭いところで縦パスを受けてフリックとスルー、ワンタッチをずっと狙っていたけれど、なかなかできなかった。でもそれは今後も続けていきたい」と本人は狙いを持ったプレーを試みたことを明かしたが、それを国際舞台で効果的に発揮できるレベルには達していない。

 バルセロナで成功しようと思うなら、高いクオリティーを常に維持し続けることが絶対条件。ディエゴ・ゴディン、ホセ・ヒメネスというアトレチコ・マドリーのセンターバックコンビが陣取っていたウルグアイ戦でその重要性を再認識したことは、安部にとって1つの大きな糧になるはずだ。

 このようにハードルは少なくないが、名門・バルセロナが若き日本人選手に着目し、潜在能力を認め、獲得に乗り出すようになったことは日本サッカー界の進化の証明に他ならない。安部の移籍は正式決定していないが、世界中が憧れる名門移籍が実現した際には、何とか困難を乗り越え、成功をつかみ取ってほしい。近い将来、安部のいるバルセロナと久保のいるレアルがクラシコを戦う日が訪れるのを願ってやまない。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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