心の強さで全日本を制したサニブラウン スタートを克服し、世界の表彰台を目指す

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 陸上の日本選手権2日目が28日に福岡・博多の森陸上競技場で行われ、男子100メートル決勝では日本記録保持者のサニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)が2年ぶり2度目の優勝。向かい風0.3メートルの中、自身の持つ大会記録を0秒03更新する10秒02をマークし、世界選手権(9月27日開幕/カタール・ドーハ)の代表に内定した。

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“雨男”ぶりは健在も、大会記録を塗り替える

レース後、桐生(左)と健闘を称え合うサニブラウン 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 圧倒的な加速を見せた。予選、準決勝で苦しんだスタートのタイミングはこの日もつかみきれず、全体で2番目に遅い反応。しかし、「焦らず、顔を下に向けて加速し続けた」と一気にスピードアップし、中盤でトップに躍り出ると、その勢いのままゴールテープを切った。隣を走っていた前日本記録保持者の桐生祥秀(日本生命)も「ハキーム君のように、後半にもっと伸びないといけない。力が足りなかった」と脱帽する走りだった。

 2年前は雨中のレースで初優勝を果たした。この日も18時過ぎまで大雨が降っており“雨男”ぶりは健在だった。今季3度目の9秒台はならなかったものの、大会記録を塗り替える好走で日本記録保持者の強さを示した。「(9秒台まで)あと0秒03ですか。もっとスタートがしっかりできていればよかったですね」と記録には不満を見せたものの、王座奪還に「米国で速い選手と走ってきたので、強い姿を見せられないと意味がない。集中して走れたのは良かったと思います」と胸を張った。

20歳の心を強くした米国での経験

 心の成長が著しい。「史上最高レベルの戦い」と言われたこのレース、会場には前日より5000人以上多い14100人が押し寄せ、固唾(かたず)を飲んで日本記録の更新を待ちわびていた。さらに、隣を走るのは自身と同じ9秒台ランナーの桐生。だが、そんな状況でも20歳のメンタルは揺らがなかった。

「桐生さんのことは全然気にしないようにしていた。自分との戦いだけに集中していた」

 9秒97の日本記録を打ち立てた7日の全米大学選手権は、100メートルに加えて200メートル、100×4リレーをわずか1時間半の間にこなす超過密スケジュールだった。過酷な状況に身を置くことで「ハードすぎて、集中せざるをえなくなってしまう」と、自然と本番に気持ちのピークを合わせる調整が染み付いた。それによって、今では「レースで緊張することはほとんどなくなっちゃいました。常に自分がどんな走りをするかワクワクしている」と、ベストな精神状態でレースに挑むことができている。

真のトップクラスになるために

サニブラウン自身も自覚している「課題」を克服し、さらなる記録更新なるか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 さらなる成長に向けて、スタートの改善は不可欠。「スタートのピストルが早いので、音をちゃんと聞こうと集中していたんですが、全然出られなくて『なんだかなあ』という感じでした。いつも通りにするか、より改良した形にするかは向こう(米国)に戻って分かればいいかなと思います」と、時間をかけて修正していくつもりだ。

 もう1つテーマに挙げたのは「再現性」の向上。決勝でも「腕の振りが前に流れてしまったり、あごが上がったりしてしまった」と、自分にとってのベストなフォームで走り切ることはできなかったという。

「技術は備わってきていると思うので、それを常に試合で出せるようにしないといけない。世界のトップレベルの選手は、それができる強さがあります。(内定が決まった)世界陸上では決勝に入って、メダルが狙えるところまで練習していきたい」

 さらなる日本記録更新、そして世界の表彰台に立つことへの期待はふくらむ一方だが、その前に29日から200メートルのレースも控えている。サニブラウンは「200メートルも気を抜かず、集中していきたい」と静かに闘志を燃やした。2年ぶりの2冠、さらに2003年に末續慎吾が打ち立てた日本記録(20秒03)の更新。自身に満点をつけるような走りができた時、2つの金字塔が見えてくる。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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