サニブラウンは「9秒91も射程圏」
伊東浩司氏が語る進化の可能性

衝撃を感じなかった日本新記録

サニブラウン(左から2人目)の走りは、「日本時代に下地を作り、米国でのスプリント技術が身についてきている」と伊東氏は語る
サニブラウン(左から2人目)の走りは、「日本時代に下地を作り、米国でのスプリント技術が身についてきている」と伊東氏は語る【写真は共同】

 米国・フロリダ大で競技を続けているサニブラウン・ハキームが、全米学生選手権100メートルの準決勝(日本時間6日)で追い風参考記録ながら9秒96を出したのに続き、7日の決勝では追い風0.8メートルの条件で9秒97の日本記録を出した。同種目の元日本記録保持者である伊東浩司氏は「どうしても16〜17歳ころの活躍を見ていると、9秒台を出すのは時間の問題だと周りも見ていたので、桐生祥秀(日本生命)が9秒台を出した時のような衝撃はあまり感じないですね」と言う。


 サニブラウンは高2だった2015年には日本選手権の100メートルと200メートルで2位になり、その後も世界ユース選手権で100メートルと200メートルの2冠を、ともに大会記録で獲得。初出場の世界選手権200メートルでは史上最年少の16歳で準決勝に進出して、将来性の高さを見せた。


 高校を卒業した17年には日本選手権で2冠を獲得して、世界選手権も100メートルは準決勝敗退ながら、200メートルでは決勝に進出して7位。本人も100メートルの9秒台は狙うものではなく、「いつか出るもの」と気負うことなく口にする記録になっていた。


 それは彼を見る者にとっても同じだった。昨年こそケガもあって4月以降は試合には姿を見せなかったが、今年は1月のインドア(室内)シーズンから競技に復帰。3月の全米大学室内選手権60メートルでは6秒54の日本タイ記録で走り、屋外シーズンへの期待を膨らませていた。そして5月11日の米大学南東部選手権100メートル決勝では、追い風1.8メートルの条件で日本人2人目の9秒台となる9秒99を出していたのだ。

価値が高い「前に2人がいる中での9秒台」

「トップではない中での9秒台は素晴らしい」と伊東氏はサニブラウンを評価する
「トップではない中での9秒台は素晴らしい」と伊東氏はサニブラウンを評価する【写真は共同】

 全米大学の決勝は、スタートは互角に出ながらも中盤から抜け出したディビネ・オドゥドゥル(ナイジェリア)とクラボン・グレスピー(米国)に差を付けられ、9秒86と9秒93のふたりに次ぐ3位だった。本人も「終盤はストライドが伸びてしまった」と話していたように、キレのある2人の走りに比べれば少し重さもある走りだった。だが伊東氏はそんなレースでも9秒97を高く評価する。


「スタートは本人が納得するような感じではないと思うし、もっと進化したものをやるイメージはあるだろうけど、200メートルでも同じ2人が19秒台で1、2位になっていて全米学生の短距離の強さを見せている中で、トップではない9秒97は素晴らしいかなと思います。やっぱりいろんな好記録を見ると、自分が思うような走りをできた時の記録が多い。先にゴールした2人が自分のストロングポイントを上回る走りをしているが、それを眺めながら走るのはスプリント系種目では難しいもの。その中での9秒97と言うのはすごく価値があると思います」


 以前より筋力は付いてきているが、まだ荒さもある走り。伊東氏も「最終的にどういう体になるかイメージできないが、これから長く競技をやっていく中で『あの時代はまだ小さかったな』と言われるような、発展途上かなと思っている」という状態だ。この時期に記録を狙う日本とは違い、1月から室内を5試合こなして屋外は7試合目というスケジュールを淡々とこなしている中で、サニブラウンは当たり前のように9秒台が出ただけにも見える。


「スタートからの動きに関しては、まだ大きな手足を持て余しながらの動きではあるけど、やっていることが少しできてきたような感じ。まだ70〜80%くらいの感じで、圧倒的に速いとか、強いという力感は見えてないですね。でも、まだ20歳なのでこれから作り上げていったら末恐ろしいというか、これから彼が目指しているものを作り上げていったらまた違ってくると思います。中盤からのキレは前の2人とは違い、もともと彼自身がそういう走りをするタイプではないが、さらに筋力などが向上してくればできてくると思う。彼の場合は、日本のスプリンターのように、前半からピッチで作り上げていくタイプではなく、あの体をいかにコンパクトに使うかという走りなので、横で走っていたら走りにくいタイプの選手に間違いないですね。日本選手が隣で走っていたら一歩の距離感をすごく大きく感じるだろうし、キレがあるような感じではないのに推進力を感じられる選手なので崩されてしまいます。高校時代に日本流でしっかりと下地を作り、その上で米国に行って本当のスプリント技術を教わって、それが身についてきている。生活面やケガで苦労したと思うけど、やはりこの練習で良かったと思えた瞬間だったと思います」(伊東)

折山淑美

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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