連載:輝きを取り戻した男たち

今永昇太が豪州で身に付けた“鈍感力” 王道ピッチングで、“無双”状態に

前田恵
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豪ウインターリーグに参加するなど、自分を見つめ直すことができた今永は、今季ここまで好調な成績を収めている 【写真は共同】

「すべてのことには、“タイミング”があるんですよ」と、今永昇太は言う。ドラフト1位で指名されたのも、タイミング。2年連続クライマックスシリーズ(CS)に出場し、日本シリーズを経験できたのも、「苦しい時期を乗り越えてきた先輩方がいるおかげで、僕がいい時間をもらえた」タイミングだったのだと。そして自らが悩めるとき、球団が豪州ABLへの選手派遣を決めた。それもまた今永にとって、絶好のタイミングだった。

豪州で魅せた今永の“SHOw

 豪州ABL(Australian Baseball League)での今永昇太は、NPBでの不振などなかったかのように、輝いていた。小気味よいピッチングで、バッタバッタと三振を奪う。今永が投げるたび、メディアやファンは彼の名前に引っ掛け“SHOw time!”と、勝利の予感に沸いた。約1カ月半にわたる参加期間中、今永は6試合に先発し、4勝0敗。35イニングを自責点2の防御率0.51、奪三振57と、チームのエースに匹敵する成績を残し、惜しまれながら帰国した。

「人間的な成長と、『戻れる場所』を確立することが、ウインターリーグ参加の目的でした。それに加えて、向こうで“鈍感力”を付けることができたんじゃないかと思います。海外って、いい意味で雑な部分があるんですね。エラーで負けても、打てなくて負けても、みんなあっという間に切り替えて、次の試合に臨んでいた。彼らと一緒に野球をやっていると、自分が今まで気にしていたことが――マウンドを気にしたり、ボールの形が一つひとつ違うのが気になったりっていうのが、ちっぽけに感じてきたんです。そんな自分の繊細さが、海外の野球や文化に触れて、どこか取り払われたように思います」

 豪州滞在中、「ここでの結果はベストに近いけれども、それが日本での自信になるわけではない」と、今永は言った。豪州と日本では、野球が全く違う。そのため2月の春季キャンプは、ピッチングフォームを日本のバッター用のものにシフトすることから始めなければならなかった。
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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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