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新井貴浩・ただありがとう
ミスター赤ヘルの言葉に涙、人生最大の挫折
悪循環の迷路にいた新井さんに来た連絡

四番降格

前年の不振から脱却を図った2004年だがこの年も復活とはいかなかった
前年の不振から脱却を図った2004年だがこの年も復活とはいかなかった【写真は共同】

 そして、その日は来た。

 7月12日、開幕から73試合目の中日戦。試合前、山本(浩二)監督から広島市民球場の監督室に呼ばれ、六番降格を告げられた。


「どうや、新井。苦しいか」


 山本監督は、おもむろに切り出した。責められてはいない。トーンはむしろ、僕をいたわってくれているかのようだった。

「苦しいです……」


 そう返した瞬間、耐え切れなくなった。誰にも言えずに抑えていた感情が爆発し、涙となってあふれ出た。


「オレにも経験があるからわかるよ」


 普段は厳しい指揮官が優しく声を掛けてくれる。心底、申し訳ないと思った。


 昭和の黄金時代をけん引し、四番のプレッシャーや責任の重さを肌で知るミスター赤ヘル。広島で生まれ育ち、幼い頃からカープファンだった僕にとってはスーパースターだ。そんな憧れの人の期待に応えられなかった。人生最大の挫折だった。

 試合前の時点で打率.224、6本塁打、33打点。こんな成績では下げられて当然だ。一方では、どこかホッとする自分もいた。実に情けない話。自力でもう一度四番を打ってやる──。泣きながら胸に誓った。


 しかし、以降も調子は上がらず、その年は出場137試合で打率.236、19本塁打、62打点。75試合でスタメン四番に起用されながら、あまりに不甲斐ない成績だった。


 翌2004年もパッとしなかった。オープン戦で左手の甲を痛め、開幕にすら間に合わなかった。終盤3試合のみ四番に起用されたが、もっぱら六、七番。途中出場が増え、成績もダウンした。完全に頭打ちだった。

 思えば、それまでは感覚で打っていた。僕は動体視力が比較的いい。その動体視力と感覚的な反応。それだけで打てていた。考えてみると、それもすごいことだが、しっかりした自分の技術、木でいう幹の部分がない状態でプレーしていたため、いざ悪くなった時に戻れる場所がない。


 そんな状態、つまり不調ではなく、単に実力がない状態で初めて四番に指名された。期待され、周りからの注目度もケタ違い。なのに、結果が出ない。雑音が聞こえ始め、気持ちが焦る。でも、帰る場所がないから、対処の仕方がわからない。


 当然、打撃コーチからも指導を受けた。だが、不器用な僕は助言を体得できなかった。もがいても、もがいても、抜け出せない悪循環のループ。完全に迷路の中にいた。


 そんな時だった。金本(知憲)さんから連絡があったのは。2005年の春。阪神とのオープン戦だったか、僕のバッティングが目に余ったらしく、試合後にメールか電話が来た。

「オマエ、何や、あの打ち方は。あんなんだったら、一生打てんわ」


 悩み抜いた2年間。ふと、金本さんの顔が浮かぶことがあった。何とか教えてもらえないだろうか……。そう思う一方では、自分で解決しないといけない、頼ってはいけないという気持ちもあった。

 ただ、もう切羽詰まった状態にまで追い込まれている。今年ダメなら、自分のポジションは決まってしまう。代打要員か、よくても左投手が先発時のスタメン。そんなところだろう。なりふり構っていられなかった。


「どうしたら打てるようになりますか? お願いします。教えてください」


 僕は即座に頭を下げていた。


「体に真っすぐ軸を作り、その軸を中心に正しく回転しろ」


 金本さんからは、そう助言された。それまでの僕は飛距離に目がいきすぎるあまり、ステップ幅の大きいフォームになっていた。これだと体が突っ込みやすく、落ちる球や逃げる球に引っかかりやすい。


 いや、低迷した2年間はバッティングの形をコロコロ変えた。芯がないから、打てなくなるとパニックになる。木の幹がないから対処の仕方がわからないし、チェックしようにもできない。その繰り返しだった。


 教わった軸回転を、僕は反復練習した。もちろん、うまくいかないこともある。でも、続けると決めたこと。考えはブレなかった。カベにぶつかったら、その都度連絡した。宿舎のカーテンを開け、ガラス窓に映る自分のスイングを確認しながら、「こうですか?」と繰り返し質問する。試合後でも、金本さんは疲れているのにていねいに教えてくれた。


(文:新井貴浩)



※本記事は書籍『ただ、ありがとう 「すべての出会いに感謝します」』(ベースボール・マガジン社)からの転載です。掲載内容は発行日(2019年4月3日)当時のものです。

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