連載:ただ、ありがとう「すべての出会いに感謝します」

新井さんが振り返る20年の現役生活 ネット裏から試合を観る日々に思うこと

ベースボール・マガジン社

3月に行われた引退セレモニーで多くのファンに手をふる新井氏 【写真は共同】

 2019年のプロ野球が開幕して、2カ月近くがたった。グラウンドを離れ、バックネット裏から試合を観る日々は新鮮で面白い。ファンの皆さんに近い心境や目線だと思う。

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 出遅れていた広島は、しっかり立てなおし、リーグ4連覇を狙える位置まで持ってきた。さすがだ。年齢的には若い選手が多くても、昨季までセ・リーグを3連覇した経験が、やはり大きい。勝つためにやるべきこと、逆にやってはいけないことを肌で分かっている。試合の流れを把握し、攻守両面で勝負どころを知っている。だから、競り合いに強いし、逆転勝利も多い。年齢だけでは測れない、円熟した実力を持ったチームだ。

 4番の鈴木誠也は、もう球界を代表する打者にまで成長した。長打を打てて、足も速い、肩も強い。これだけの成績を残していても、まだまだ伸びしろが感じさせるのだから末恐ろしい選手だ。菊池涼介は卓越した二塁守備に加え、昨季は苦しんだ打撃でもチームを引っ張っている。状況に合わせた打撃ができ、好機では集中力が一段と高まるから勝負強い。

 会沢翼の存在も大きいと思う。開幕前からキーマンとして名前を挙げてきた。彼は自分さえ良ければ…という考え方を全く持っていない。広島へ復帰してから引退するまでの4年間、もともと親交のあった石原慶幸を別にすれば、最も多く話をしたのが実は会沢だった。よく食事にも行ったし、いろんな話をした。言葉の端々から仲間や和を大事にする姿勢が伝わった。捕手として選手会長としてグラウンド内だけでなく、グラウンド外でもリーダーシップを発揮している姿が目に浮かぶ。

 開幕直後の苦しい時期を乗り越えた選手たちの頑張りには頭が下がる思いだ。序盤は投手が多くの四球を出すこともあれば、野手にも失策が目立った。丸佳浩が抜けた打線もつながりを欠いた。信頼関係を壊さず、それぞれが助け合ったから、上向くことができたと思う。やはり、家族のような一体感こそが広島の強さの源だと改めて感じさせられた。
 他球団では巨人・原辰徳監督の采配が心証に残る。序盤から大差を付けて早々に主力打者をベンチへ下げた試合があった。もし反撃されたら…と怖がらない。いまだけでなく先も見据えている。決断がスピーディーで、腹の据わり方が違う。決断とは、結果責任を背負うことだと思う。

 監督としてのキャリアは改めて言うまでもない。現役時代から巨人の4番で、さまざまなものを背負って経験を積み重ねてきた方だ。「さすがです」の言葉しか出てこない。「動」と「不動」のバランスが絶妙だ。マウンドへ行って直接激励するなど随所でメッセージも発している。ベテランも若手も関係なく普段からチーム内に考え方を浸透させているから、選手も安心感を持って戦えると思う。

 阪神の戦いぶりもセ・リーグを盛り上げてくれている。もともと救援陣を中心に投手力はあった。野手でも近本光司ら若手が躍動している。結果を出した時に矢野燿大監督が一緒になって喜んでくれることも選手にとってはうれしい。
 昨季までは観る機会のなかったパ・リーグ同士の対戦も興味深い。どの投手も球が強く、どの打者もスイングが速い。投打の勝負には見応えがあり、投手が打者を育て、打者が投手を育てる土壌を感じた。昨年まで6年連続でパ・リーグ球団が日本一になっている要因の一つかもしれない。
 どのチームも勝負は夏以降だと思う。時代は平成から令和へ。ファンの皆さんにとっても面白いペナントレースになると思う。

 現役最後の試合は昨年11月3日のソフトバンクとの日本シリーズ第6戦だった。敗戦でユニホームを脱ぐことになっても、不思議と涙は出なかった。悲願の日本一には届かず、悔しくないと言ったら嘘になる。ただ、それ以上に感謝の思いで胸がいっぱいになったからだ。

 思い返せば、本当に恵まれた20年間の現役生活だった。人との出会いに恵まれ、運に恵まれたから、こんな下手くそな選手が幸せな時間を過ごすことができた。

 指導者の方たちからは、たくさんのチャンスをもらい、先輩たちからは、たくさんのことを教えてもらった。後輩たちからは、家族のような絆をもらった。かわいい後輩たちのおかげで3連覇の喜びを味わうことができたし、最後の日本シリーズという最高の舞台でユニホームを脱ぐことができた。

 何よりファンの皆さんからは、たくさんの応援と勇気を与えてもらった。たくさん怒らせ、たくさん悲しませたのに、たくさんの「頑張れ」をもらった。3月16日には開幕前の大事な時期にもかかわらず、本拠地・マツダスタジアムで引退セレモニーを開催していただいた。

「ただ、ただ、ありがとうございます」

 あいさつで言葉にした通り、本当に「感謝」しかない。今年1月で42歳になった。楽しいことや幸せなことばかりではかりではない。むしろ、辛いこと、苦しいことの方が多かった。そのどれもが、いまの支えになっている。改めてこれまでの日々を振り返りたい。

(文:新井貴浩)

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