岡崎が激白 失いかけた“点取り屋魂” 「チャレンジすることすら忘れている」

田嶋コウスケ

2年前から口にしていた移籍の可能性

実は2年前から岡崎が移籍の可能性を口にしていた 【写真:REX/アフロ】

 レスターでのラストゲームになった12日のチェルシー戦後、このプレースタイルについて、岡崎は一定の手応えがあったと話した。

「ひとつの形は見いだしたと思っているが、自分はその先にいくことができなかった。ただ、生き方のひとつとして、プレミアリーグでやっていく道は示せたと思う。中盤でハイプレスでやりながら、ゴール前に顔を出す。僕はこのプレースタイルで結果が残せると思っていた。だから、けがさえなければ……という気持ちは正直あります。あのシーズンは、二桁ゴールに手が届きそうだった。手応えはありました」

 ここから岡崎の状況をさらに難しくしたのは、フランス人のクロード・ピュエル監督の下、レスターが「世代交代」に本腰を入れたことだった。岡崎にとって在籍4季目となる今シーズンの開幕前、イングランドU−21代表MFのジェームズ・マディソンが加入した。弱冠21歳(加入当時)ながら「背番号10」が与えられたことでも期待の大きさは伝わってきたが、このマディソンが、岡崎が定位置にしていた4−2−3−1のトップ下に収まることになった。

 対する岡崎は、前シーズンの終盤に痛め、ワールドカップ・ロシア大会で悪化させた足首のけがが完治していなかった。リハビリをこなしながらのスタート。フルスロットルで挽回したくてもできないという苦しい状況が続いた。ただ、足首のけがが完治しても序列はまったく変わらず、結局、シーズン前半戦の先発数は1試合に終わった。その結果、ついに岡崎は「退団希望」を明らかにしたのだ。昨年12月のことだ。

 地元紙『レスター・マーキュリー』で岡崎自身が退団希望を明かしたため、この一報は英国中に広く知れ渡ることになった。ただ、この話を耳にしたとき、筆者に驚きはまったくなかった。1つ目の理由は、今シーズン限りでクラブとの契約が切れること。現時点で試合に出られないのなら、冬の市場で新しいチャレンジを選ぶのは当然だろう。

 もう1つの理由は、実は2年前から岡崎が移籍の可能性を口にしていたこと。レスターでは守備的FWのイメージが定着してしまい、役割やタスクがそこから離れることができなくなっていた。岡崎は純粋にストライカーとしてプレーできる場所で勝負したいと考えていたからだ。

「もう一度、ゴールに向かう気持ちを燃やしたい」

「攻守をつなぐ」役割から離れ、ゴールに向かう気持ちを再び取り戻したい岡崎 【写真:Shutterstock/アフロ】

 今から1年前にも、岡崎は「自分がずっとレスターに残りたいと思っているわけではない。もちろん、レスターに残っても、プレーするイメージはできている。もし(新シーズンでチームが)違っても、それは自分にとってチャレンジになる」と、移籍の可能性をほのめかしていた。

 こうした流れが、昨年12月の退団希望につながった。そんな岡崎の獲得に熱心に動いたのがハダースフィールドだったが、レスター側が移籍金が安いとの理由でオファーを跳ね除け、冬の市場で実現することはなかった。

 ただ、葛藤とジレンマを抱えていたことを踏まえれば、レスターから契約更新を打診されたとしても、岡崎が承諾したとは思えない。事実、レスターでのラストゲーム後に岡崎は、「今はモヤモヤした気持ちでサッカーをやっている。『攻守をつなぐ』という役割ができてしまい、なかなかそこから脱出することができなかった。だから、チャレンジすることすら忘れてしまっている。もう一度、点(=ゴール)に向かう気持ちを燃やせるところからスタートしたい。そこで生きるか死ぬかの勝負をしなきゃ、僕は終わっていくと思う」とし、新しいチャレンジをすることへの渇望を語った。

 4年在籍したレスターでの戦いについて、次のように言葉をつないだ。

「最初の2年半はかなりやれていたと思うんですけれど、やっぱり(在籍3季目の後半戦で)けがをしてからは、なかなか厳しい戦いが続いた。いろいろな葛藤を抱えながら、4年間、最後まで契約を全うした。本当に、素晴らしい経験だったと思う。美談として言うなら『すごい思い出だった』とか、かっこいい言葉で言い表せるかもしれないけれど、自分の中では悔しいことがほとんどだった。やることはやったけれど、FWとしていい結果を残せなかった。

 思い出に残っている試合? どうですかねぇ……。あまり……。僕は記憶をなくしてしまうんですよ。パッと感慨深く思い出せることがあまりない。自分は、なんでもそうです。高校時代のこともだし、すぐ(記憶が)薄くなってしまう。『あのときはよかったな』と思うより、『あの場面で、こうしておけば……』、『もっと前の位置でやりたいな……』とか考えてしまう。だから、(レスターでも)ただただ悔しい思い出しか残っていない。損な性格で、感傷にあまり浸れないんです。優勝したときも、結果を出せなかったことの方が記憶に残っている」

世代交代が進むレスターを後に

 今シーズン限りで岡崎と右サイドバックのダニー・シンプソンが去り、「奇跡のリーグ優勝」時の主力メンバーはバーディーとMFマーク・オルブライトン、DFウェズ・モーガン、DFクリスティアン・フックス、GKカスパー・シュマイケルの5選手のみとなった。

 そして、33歳の岡崎がサポーターに別れを告げた日、レスターのマッチプログラムには4人の若武者が表紙を飾った。マディソン(22歳)、FWデマレイ・グレイ(22歳)、DFベン・チルウェル(22歳)、FWハーベイ・バーンズ(21歳)の4人だ。3カ月後に始まる来シーズンは、この4人が主役になるだろう。

 世代交代を図る「ミラクル・レスター」は、新しい道を歩み始めている。そして、岡崎もまた、地図を広げて新しい航海を始めようとしている。

「レスターだけで終わりたくない。レスターのサポーターに『また、あいつ頑張ってるな』って思われるようなプレーをしていきたい」

 こうして波乱に満ちたレスターでの挑戦にピリオドを打った。しかし、すでに岡崎の視線は、その先に向けられている。「レスターでの経験を、次どこで花開かすか。それが今の僕の楽しみ」。岡崎はそう言って、グッと力を込めた。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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