在英記者だから知る岡崎慎司最大の特徴 レスターでも「泥臭さ」は愛されたが…
4年間でレスターのレジェンドに
4年間在籍したレスターでの最終戦を終えた岡崎。サポーターの大きな声援で送り出された 【Getty Images】
2015年6月にドイツ1部マインツからプレミアリーグのレスターに4年契約で加入。最終年となった今シーズンで契約満了になり、レスターを離れることになった。試合前、ブレンダン・ロジャーズ監督が「シンジはレジェンドとしてクラブを去る。感謝の意を示されるだろう」と話していたとおり、シーズン最終節となるこの一戦が“ラストゲーム”になり、大きな声援とともにサポーターに送り出された。
「うれしかった。サポーターの記憶に残ったんだなと、あらためて実感できた」と岡崎。こうして、レスターでの4年間にピリオドを打った。
「奇跡の優勝」から始まった濃密な時間
「降格候補」と言われたレスターが、岡崎の加入1年目でまさかの快進撃を見せ、世界最高峰と呼ばれるプレミアリーグで優勝争いを演じ、勢いそのままイングランドの頂点に立った。その中で岡崎は、押しも押されもせぬ中心選手として戴冠の原動力となった。
在籍2年目には欧州チャンピオンズリーグに出場し、ベスト8進出に貢献。翌シーズンは、前半戦だけで6ゴールを奪うハイペースで得点を量産したものの、後半戦に入ると膝、足首の順でけがに泣き、ゴールを積み上げることができず悔しい思いをした。
そして、最終年は監督の構想から外れ、ベンチを温め続けた。岡崎の獲得に深く関わったタイ人オーナーがヘリコプター事故で亡くなり、悲しい思いもした。こうして思い返してみても、欧州でこれほどまで濃密な時間を過ごした日本人選手も珍しいだろう。
その中で、岡崎はひたすら自問自答を繰り返してきた。どうすればレギュラーの座をつかめるか? いかにゴール数を伸ばすか? 当たり負けしないにはどうすればいいか? チームで絶対的な存在になるには何が必要か──。
岡崎を支えていたのは、「もっと上へ」「もっと高みを目指す」といった飽くなき向上心だった。苦しいときはもがき苦しみ、必死にはい上がろうとした。うまくいっている時も満足感や達成感に浸ることなく、さらに前に進もうとした。レスターの勝利を願うのと同時に、自身が成長するためには何をすればいいのか、考え続けた4年間だったように思う。
先行しすぎた「泥臭さ」のイメージ
泥臭いプレーがトレードマークの岡崎だが、最大の特徴は「考える力」 【Getty Images】
実際、こちらからひとつ質問をぶつけると、岡崎はあらかじめ答えを用意してきたかのように、ひたすら喋り続けた。もちろん、やみくもに話しているわけではない。思考を地中深くまで張り巡らせ、自分の中で事前に“答え”を見いだしているからこそ、ひとつの問いに自身の考えをハッキリと示すことができた。それは常日頃から考え抜いていなければ、出てこない言葉ばかりだった。
質問する側からすれば、あらかじめ答えをある程度、予想して聞く質問もあるが、岡崎の場合は、良い意味で予想を裏切られたり、逆にこちらがハッと気付かされたりすることも多々あった。
例えば、優勝争いを演じていた15−16シーズンの後半戦、2月のひとコマ。最前線に陣取るFWジェイミー・バーディーを後方で支えるセカンドストライカーとしてレギュラーの座をつかんだ岡崎に対し、英メディアは「ハードワーカー」「自己を犠牲にして戦う、利他性にあふれる選手」と賛辞の言葉を並べていた。元マンチェスター・ユナイテッドで解説者を務めるガリー・ネビルにいたっては、そのシーズンに加入した選手で「ベスト・バイ(=最高の補強選手)」と褒めたたえていた。
そこで筆者は、守備が評価されていることを踏まえて、「守備と攻撃のバランスをどう考えている?」と尋ねてみた。岡崎は以下のように答えた。
「守備? やることはやるんですけれど、(あくまでも守備は)意識するだけですね。それだけで満足していたら、いつでも監督に代えられてしまう。献身的に動くのは生き抜くためには大事だが、自分の武器ではない。武器にしてしまうと……献身的な動きは、やればみんなできてしまう。俺は人よりも努力しないといけない。献身的と言われるまでハードワークしないと試合に出られないから、やっているだけです。
海外でやっていて、献身性という言葉ほど危険で甘いものはない。監督から『お前いいぞ!』と言われても、点が取れていないと、何度も代えられてきたし。『あ、これは褒め言葉じゃない。危険信号』と認識してきた。俺はもっと違うところで認められないと。俺の場合、それはゴールです」
目標は、あくまでもゴールを奪うこと。そのためには、まず試合に出なければかなわない。つまり、目標は「ゴール」であり、「献身的な動き」は目標を達成するための手段に過ぎない。だから、手段を評価されても、岡崎にとっては最高の褒め言葉にならなかった。