DeNA・大貫を勇気づける“番長”の言葉 「可能性は果てしなく広がっている」
横浜DeNAのドラフト3位ルーキー、大貫晋一。4月11日、今シーズン2試合目の先発登板となった阪神戦で5回を1失点に抑え、プロ初勝利を挙げた。
DeNAから指名を受けたのは、日本体育大を経て社会人の新日鉄住金鹿島に進んで3年目。今年の春季キャンプイン直後に25歳の誕生日を迎えた大貫は、同期入団の中では最年長ながら“いじられ役”に回っているという。
風貌も、性格も穏やかであるがゆえ、年下の選手たちが気安く接しやすいのだろう。本人は「ぼくが怒ることはありません。そもそも怒り方が分からないんです」と苦笑いを浮かべる。
のちにプロ入りする投手が、“普通の高校”に進んだ理由
11日の阪神戦でプロ初勝利を挙げたドラフト3位ルーキー大貫(16番)。左は三浦コーチ 【(C)YDB】
横浜で生まれ育った大貫は中学時代、硬式の横浜青葉シニアに所属したが、全国レベルの強豪チームで試合に出させてもらえるほどの実力はなかった。そして静岡県沼津市にある私立桐陽高校に進む。
寮生活に憧れがあったからだというが、進路選択の条件はもう一つあった。大貫は言う。
「言い方は良くないかもしれませんが、あまり強くない高校が良かったんです。中学校の時、ぼくは試合に出られなかったので、そんな自分でも試合に出させてもらえそうなところを探して。やっぱり、子どもの頃は特に、試合に出られないと楽しくないですし……」
桐陽高は、プロ野球選手を輩出したことがなく、大貫はいわば普通の高校でエースとなり、3年夏の最後の大会は県ベスト8で終えた。
大学で頭角を現すも、「もう野球は辞めよう」
2013年の首都大学野球・春季リーグで、日本体育大は4季ぶりの優勝を飾る。当時2年生の大貫は、3勝を挙げ、防御率0.52と活躍。ベストナインにも選出された。この頃から投げ始めたツーシームが大きな武器となった。
まさにこれからという時期、大貫の右ひじを痛みが襲う。自然治癒を願って半年ほど様子を見たが、状況は変わらなかった。
大貫がまず考えたのは、「もう野球は辞めよう」ということだった。日体大野球部の古城隆利監督にもそう伝えた。
幼い頃から続けてきた努力が、いまようやく花開こうとしている。それなのになぜ、野球を辞めることが第一の選択肢となったのか。なんとかして続けられる道を探ろうとは考えなかったのか。
その疑問に、大貫が答える。
「全然、自信がなかったからです。(リーグ戦で結果が出たのは)たまたまうまくいっただけだと思っていました。初めて出てきたピッチャーで、データも何もない。それがうまくハマってくれただけだろうと」
古城監督に引き留められ、手術を強く勧められた。大貫の右ひじのじん帯は断裂していた。たくさんの病院で診察を受けたが、やはり結論は「手術をするしかない」。13年11月、トミー・ジョン手術(じん帯再建手術)に踏み切った。
術後の経過は決して順調ではなかった。通常5カ月ほどでキャッチボールを始められるが、大貫の場合はそこまでに1年かかった。
「ほんとに野球できるのかなって、すごく不安でした。最初は部活にも出ていましたけど、途中からは『もういいや』という気持ちになってきて……。とにかく病院にだけは通ってリハビリを続けていました」
大学4年の春に、少しずつ試合で投げ始めた。秋にはドラフト会議が控えていたが、故障明けの大貫には無縁の世界だった。
ドラフト3位指名に「え?」
大貫のプロ野球人生は、地元球団でなじみ深いDeNAから始まる 【(C)YDB】
自身のキャリアを振り返りターニングポイントとして挙げるのは、2年目の都市対抗野球・北関東地区予選での一戦だ。日立製作所を相手に完封勝利。これを機に、周囲から「ドラフトにかかる可能性があるのではないか」と言われるようになり、意識が変わった。
スプリットを習得し、多彩な変化球を操る右腕への評価は確かに高まった。だが18年、社会人になって3度目のドラフト会議を迎える段になってもなお、確信はなかった。
ドラフト当日のことを、大貫はこう振り返る。
「どこかに指名してもらえるとはあまり思っていなかったので、(DeNAの)3位で名前が読み上げられた時は『え?』という感じで。もう本当にびっくりして、ちょっとよく分からなかったです……」
横浜市出身の大貫にとって、DeNAはなじみ深い球団だ。しかも、幼い頃から憧れた三浦大輔が、自分が入団する年に投手コーチに就任するという。
「ずっとテレビやスタジアムで見てきた方。そんな方に直接指導していただけるなんて、すごくラッキーだなって思いました」
その三浦は、大貫の第一印象をこう語る。
「キャンプで見て、クレバーというのか、クールというか。右バッターの懐を攻めるボールを投げているのが印象的でしたね。面白い投手、楽しみだなと」
オープン戦で着実に結果を残した大貫は、三浦の期待に応えて開幕ローテーション入りを果たす。