連載:やる気にさせる高校野球監督の名言ベスト66

「本物は中身の濃い平凡を積み重ねる」 前橋育英・荒井直樹

田尻賢誉
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2013年夏、エース・高橋光成を中心とした守備チームを作り上げ甲子園初出場初優勝を果たした前橋育英 【写真は共同】

 2013年の夏の甲子園。初出場で初優勝を果たしたのが前橋育英だった。大会前の下馬評ではノーマーク。当時2年生の高橋光成(埼玉西武)という大エースはいたが、守備を中心とする戦い方でまったく派手さはなかった。そのチームを率いたのが荒井直樹監督。「野球の技術のことでは怒らないと決めている」と言う温厚な指揮官だが、ぶれずに貫いているのが凡事徹底の大切さを伝えることだ。ごみを拾う、打ったら全力で走る……。派手さはなく、誰もが当たり前にできること。だが、それをやり続けることは難しい。一つひとつは特別ではないことでも、やり続けることによって大きな成果につながる。簡単そうで簡単ではないことを、いかにしてやる集団にしたのか。荒井監督の指導法とは?

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できることをやり続けた結果……初出場初優勝

 凡事徹底――。
 前橋育英・荒井直樹監督がまだ日大藤沢で監督を務めていた頃、読書で出会った言葉だ。イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんの言葉で、当時から帽子にこの4文字を書いている。

「『本物というのは中身の濃い平凡なことを積み重ねること』というのを読んで、この言葉を求めてたんだと。ピンときましたね」

 これが荒井監督の指導方針の根幹となっている。

 鍵山さんの語録には、こんな言葉がある。

「人間として生きる上で、誰でも人並みは嫌です。それでは、人並み以上になるためにはどうするかというと、特別なことを探し求めるという考え方が非常に強いわけです。しかし、世の中はそんな特別なことというのは、まずないわけでして、やはり当たり前の平凡なことをコツコツやる他ないわけです。私がこの平凡なことで一番実行しているのはそうじです」

 これに倣い、荒井監督もそうじを続けてきた。練習が休みの毎週月曜日を使って、部員全員で近隣のそうじをする。今は毎朝の散歩が部員たちの日課になっているが、ここでもごみ拾いがセットになっている。

「最初は僕が前に行って、みんながゾロゾロ来てたんですけど、これじゃダメだなと。我喜屋(優、興南監督)さんも言ってましたけど、散って歩く。『バラバラで行け。ビニール袋を持って、好きなところを15分間ごみ拾いしてこい』と。20人もゾロゾロいたら声をかけづらいけど、ポツン、ポツンといれば、近所の人も声をかけやすい。そういうのもいいなと。ごみを拾う人間になれば、捨てる人間にはならないと思うんで、それは毎日やってますね」

 前橋育英ナインは、コンビニに行くとビニール袋をとっておく。ごみ拾い用の袋にするためだ。このごみ拾いも続けることが大事。2013年夏の甲子園の際も、毎日欠かさず、全員で宿舎周辺のそうじをした。優勝して、群馬に帰る日の朝も、もちろん続けた。

「近くに公園があるんですけど、たばこの吸い殻がハンパないんですよ。それをみんなで一生懸命拾った。そのあとに1分間スピーチをするんですけど、『僕が拾ってるのを見ながら捨てた人がいた。あんな人間にはなりたくない』と言ってるヤツもいましたね(笑)」
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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