2017年 DAZN元年への道 <後編> シリーズ 証言でつづる「Jリーグ25周年」

宇都宮徹壱

「2ステージ制の廃止とDAZNは別」

「2ステージ制の廃止とDAZNは別」と断言したJリーグの村井チェアマン 【宇都宮徹壱】

 村井満が第5代Jリーグチェアマンに就任した14年といえば、J1リーグが2ステージ制によるCS(チャンピオンシップ)を導入する前年に当たる。当時のJリーグは、放映権を持つスカパー!などから得られる放映権収入(年間50億円とされる)に支えられてきた。その一方で、地上波への露出を増やさなければ頭打ちとなるという危機感を抱えており、CS復活はそのための切り札と目されていた。ちょうどその頃、当時のJリーグ社員のちょっとした「お遊び」が村井の目に止まる。以下、当人の証言。

「今でもよく覚えているんだけれど、川崎フロンターレの中村憲剛と大久保嘉人が『キャプテン翼』の反動蹴速迅砲(はんどうしゅうそくじんほう)を再現した動画をYouTubeにアップして、ものすごい反響があったんですよね。当時、Jリーグの試合映像の使用は基本的にスカパー!さんの許諾が必要だったんだけれど、あれはウチのスタッフがクラブの練習場に出向いて撮影したものでした。ですから撮影後スピーディーにアップすることができたんですよね。その時にネット配信の影響力のすごさと、自分たちの動画コンテンツを保有するメリットを実感しました」

 この経験が、のちにDAZNと大型契約をする際に「映像の著作権はJリーグが保有する」という条件につながっていくのだが、それは2年後の話。その前に、村井と2ステージ制に関して流布されている2つの誤解について言及しておきたい。まず、2ステージ制導入を決断したのはチェアマン就任後ではないこと(前任の大東和美チェアマン在任時である)。そして村井が2ステージ制廃止を決断したのは、DAZNマネーが直接の理由ではないということ。後者については14年10月2日、AFC(アジアサッカー連盟)が、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の日程変更を発表したことが大きな理由であった。

「CSを15年と16年に開催したわけですが、16年はAFCのスケジュールが変更になったことで、J1のレギュラーシーズンを11月3日で終えなければならなくなったんです。CSに出場できなかったクラブのサポーターは、11月上旬から2月の下旬までずっとサッカーを楽しむことができなくなってしまう。4カ月間ですから、1年の3分の1ですよ。2ステージ制を続けていくことは、日本サッカーのために良くないのではないか──。そういう議論を、実行委員会でするようになりました。ですので、2ステージ制の廃止とDAZNは、実は異なるレイヤーの話なんです」

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「いつでもどこでもJリーグを楽しめる」

DAZNは国内ナンバー2のプロリーグであるJリーグだからこそ可能性を感じていた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 のちにDAZNというOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスを開始するパフォーム・グループ。彼らが村井に最初に接触したのは14年6月28日、場所は出張先のミャンマーであった。ただしこの時はOTTに関する話題はなく、村井のパフォームに対する印象も「世界中にスポーツコンテンツのサービスを展開している」、そして「Jリーグに強い関心を持っている」というものであった。実際、DAZNがサービスを開始した16年8月以降、オーストリア、ドイツ、スイスに続く市場として、彼らがターゲットにしたのが日本。なぜパフォームはJリーグに、そして日本という市場に早くから注目していたのだろう。

「まずベースとして、日本人のスポーツに対する関心度の高さというものがありました。次に、どれだけコンシューマーが(スポーツコンテンツに)お金を使えるのかという経済基盤の部分、そしてインターネットのインフラ環境。この3つの柱を重視して日本市場をリサーチしていました。すると、日本で最もメジャーなプロフェッショナルスポーツはプロ野球であり、2番目にJリーグがあることが分かった。どこの国でもそうですが、ナンバー1コンテンツは、たいていオールドメディアがプロテクトしています。そこでパフォームは、ナンバー2であるJリーグに可能性を感じたわけです」

 説明してくれたのは、DAZNのアクティベーション・バイスプレジデントである平田正俊である。スカパー!との放映権は16年いっぱいで終了。17年からの新たな放映権の入札は、16年の4月に行われる。入札を希望する各社に対して、Jリーグは1月から3月までの間に個別に対応することになっていた。当然、これまでのつながりから、スカパー!が新たな契約を結ぼうとしているのは明らか。他方、国内最大手の通信会社も手を挙げるという情報もあった。客観的に見れば、日本での実績もない外資系の「黒船」企業に、有利な要素は何ひとつなかった。しかしパフォームには、2つのポイントがあったと平田は語る。

「まず、ここ数年の視聴者動向などのデータをお見せしながら『いつでもどこでもJリーグを楽しめる』というOTTサービスのメリットを第1のポイントとしてご提案しました。そして第2のポイントとして、われわれが強く押し出したのが『グローバルで戦ってきた』という実績。われわれは、日本の視聴者を増やしていきます。でもそれだけではなく、このJリーグをグローバルコンテンツにしていきましょう。弊社と独占契約することで、一緒にそれを目指しましょう。そういうことを常に言い続けていました。おそらく村井さんなら、ご理解いただけるだろうという読みはあったと思います」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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