28歳、美しさと気品はそのままに――ヒシアマゾンと私の数奇な出会い
「君はヒシアマゾンという馬を知っているかい?」
20数年の時を経て、ヒシアマゾンにめぐり合うチャンスが訪れた(2018年2月3日 ポログリーンステーブルにて) 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
「君は日本から来たのかい?」
「はい、そうです」と言うと、
「君はかつて日本で大活躍したヒシアマゾンという馬を知っているかい?」
その時、私の思いは一瞬にしてあのオールカマーへと戻り、あの強くて美しく気品のあった牝馬ヒシアマゾンを思い出していた。
「もちろんです。私はまだ学生でしたが、ヒシアマゾンが大好きですごく応援していました」
そう答えると、彼の笑顔がはじけた。
「そうか、君はヒシアマゾンのファンだったのか……」と何度もうなずいてくれた。
このホースマンは米国の馬産の本場・ケンタッキー州にあるテイラーメイドファームの副社長フランク・テイラー氏だったのである。
【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
ヒシアマゾンが生まれたテイラーメイドファーム 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
ヒシアマゾンの母 ケイティーズの墓(テイラーメイドファームにて) 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
ヒシアマゾンの父 シアトリカルの墓(ヒルンデールファームにて) 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
フランク氏の気さくな提案に私は喜びと感激ですぐさま、「是非ともお願いします!」と大きな声で返答していた。
今でもレースを走れてしまうのではないか
それから約1年後の2017年夏、私はケンタッキー州のレキシントンに向かった。テイラーメイドファームを訪ねるアポイントメントをとった際、大歓迎の意思表示をされてヒシアマゾンのいる場所も教えていただいた。
現在ヒシアマゾンが余生を過ごしているポログリーンステーブル 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
そして案内されるとそこには、現役時代にパドックで見ていたそのままのヒシアマゾンが佇んでいた。
26歳という年齢を聞いて、きれいだった漆黒の馬体も加齢により白髪がかなり目立ってきているのではないか……と想像していたが、それは見事に裏切られた。顔はその当時のまま。さすがに体全体の筋肉は落ちてはいたが、歯も欠けていたり失っていたりもせず、健康そのもの。顔と首だけを見れば若かったころからの変化を感じさせず、今でもレースを走れてしまうのではないかという雰囲気を感じてしまうほどだった。そして年齢を感じさせないその綺麗な歯で、ヒシアマゾンは与えられた飼い葉をおしとやかに、しかしながらしっかりと噛みながら食べていた。
ヒシアマゾンは現役時代と変わらない若々しい表情だった(2018年8月26日 ポログリーンステーブルにて) 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
私はそっと声を掛けたが、アマゾンはちらりとこちらに目をやるとまた牧草へと顔を沈めた。
“あっ、久しぶりに日本語を聞いたわ”
アマゾンはそんなことを思っていたのだろうか。ケンタッキーでの彼女は大変静かに、そして現役時代にウィナーズサークルで見せていた優しい瞳をした気品のある顔だった。
おばあちゃんになったヒシアマゾンは今もそのまま……
おばあちゃんになった今も元気に暮らしています(2019年2月2日 ポログリーンステーブルにて) 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
レースでは圧倒的な強さを見せるのに、普段は気品のある顔立ちと漆黒の毛色で美しい長い脚。目を吊り上げて闘志をむき出しにしていたのに、勝利後のウィナーズサークルではいかにも女性らしい優しい瞳に戻る。そのギャップもまた彼女の魅力だったが、おばあちゃんになったヒシアマゾンは今もそのまま……と心の片隅で思い出していただければ嬉しく思います。
2018年6月17日 ポログリーンステーブルにて 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
2019年2月2日 ポログリーンステーブルにて 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】
2019年2月2日 ポログリーンステーブルにて 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】