2番目に応援したいインド 日々是亜洲杯2019(1月10日)

宇都宮徹壱

追い詰められたUAEとザッケローニ

夕闇迫るシェイク・ザイード・スタジアム。UAEは今度こそ勝ち点3を積み上げることができるか? 【宇都宮徹壱】

 アジアカップ6日目。大会はすべての出場国が初戦を終えて、この日から2巡目に入る。ドバイでは15時からバーレーン対タイ、アルアインでは17時30分からヨルダン対シリア、そしてここアブダビでは20時からインド対UAEが行われることになっていた。初戦でタイに4−1という驚きのスコアで勝利したインドは、大会が現行フォーマットとなって初となるノックアウトステージ進出の期待が懸かる。一方、初戦でバーレーンに辛くも引き分けている開催国UAEは、ここで勝ち点3を積み上げておかないと今後が厳しい。

 大会が始まる前は、インド対UAEというカードが、これほど重要な一戦になるとは想像もしていなかった。当のUAEにしても、その思いは同様であろう。15時の裏の試合は、監督を交代して背水の陣で臨んだタイが、チャナティップの決勝ゴールでバーレーンに1−0で勝利した。この結果、暫定でUAEは3位に後退。これでますます彼らは、インドに勝利する必要性に迫られることとなった。試合前の映像で映し出されたアルベルト・ザッケローニ監督の表情に、疲労と焦燥による陰りが見られたのが気になる。

 この日の会場は、開幕戦と同じシェイク・ザイード・スタジアム。今大会で最も大きい4万3620人収容のスタンドは、キックオフ直前にはスタンドの7割が埋まっていた。白装束の地元ファンに混じって意外と存在感を示しているのが、代表のブルーのユニフォームを身にまとったインド人たち。以前にも触れたように、当地ではインドからの出稼ぎが多い。おそらくは一日の仕事を早めに終えて、祖国の代表を応援するために駆けつけたのであろう。選手入場の際は、赤・緑・白・黒のUAE国旗、そしてオレンジ・白・緑のインド国旗がスタンドから盛んに振られ、高揚感あふれる雰囲気の中でキックオフを迎えた。

 前半、ゲームを支配したのはインド。序盤のUAEの猛攻を切り抜けると、見事なカウンターを連発させる。攻撃の核となったのは、11番のFWスミル・チェトリと13番のMFムハンメド・アシケだ。前半11分、相手のパスをカットしたチェトリから前線のムハンメドにパスがわたり、ムハンメドはそのまま持ち上がってシュート。23分には右サイドからのクロスにチェトリがヘディングでゴールを狙う。しかし、いずれのチャンスもUAEの守護神、ハリド・エイサの攻守に阻まれた。一方のUAEは、5人で守るインドの強固なブロックに攻めあぐねるばかり。どちらがホームか分からない状態は、前半40分まで続いた。

倒れない、サボらない、最後まで諦めない

国旗を掲げて祖国の代表に声援を送るインドのサポーター。彼らの参戦でスタジアムは満員となった 【宇都宮徹壱】

 試合は思わぬ形で動く。41分、UAEのFWアリ・マブフートが右サイドを駆け抜け、ペナルティーエリア付近でオーバーラップしてきたMFハルファン・ムバラクにバックパス。ムバラクは相手DF2人のマークを振り切りながら、そのままドリブルでゴールまで前進して右足でゴールネットを突き刺す。それまでずっと劣勢に立たされていたUAEが、初めて枠を捉えたシュートがそのまま先制点となった。スタジアムは割れんばかりの大歓声。失点を喫したインドのサポーターも、懸命にピッチに声援を送る。

 エンドが替わった後半早々、インドは2回のビッグチャンスを迎えるも決めきれず。特に11分のMFクマン・ウダンタが放ったシュートは、わずかのところでバーに直撃する際どいものだった。明らかにUAEよりも多くのチャンスを作りながら、あと一歩で決めきれずに天を仰ぐインドの選手たち。このまま1−0で終了かと思われた後半42分、UAEにようやく追加点が生まれる。決めたのは、最前線のアリ・マブフート。MFアリ・サルミンのロングフィードをアウトサイドでトラップし、巧みなフェイントで相手DFを翻弄してから山なりのシュートを決めて「勝負あり」となった。

「インドはダイナミックなカウンターを繰り出し、非常にアグレッシブでコンパクトなプレーをしていた。非常に手ごわい相手だったが、勝ち点3を得られたことをポジティブに捉えている。選手にはおめでとうと言いたい」──試合後のザッケローニ監督のコメントである。会見後、顔見知りの日本人記者たちと握手する表情は、深い安ど感に満ちていた。私も、今大会の初勝利を飾った元日本代表監督には、心からおめでとうと申し上げたい。だが、申し訳ないけれど今回の試合に関しては、UAEではなくインドに肩入れしていたことを告白せねばなるまい。

 今大会のインドは私にとって、日本を除いて最もシンパシーを感じさせるチームとなった。特筆すべきタレントがいるわけではなく、Jリーグでプレーしている選手がいるわけでもなく、ましてや洗練されたサッカーをしているわけでもない。そのかわり、簡単に倒れないし、オフ・ザ・ボールでサボらないし、最後まで諦めない。そうした彼らのひたむきな姿勢には、第三者でも無性に応援したくなる「何か」を感じさせる。自分の国を応援するだけでない。2番目に応援したいチームを見つけることもまた、アジアカップの楽しみ方のひとつだと思う。そんなわけで今大会は、インドの奮闘ぶりに目が離せない。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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