アジアカップで「本当のチームになる」 酒井宏樹が語る、2018年と近未来

宇都宮徹壱

酒井宏樹にマルセイユのこと、W杯のこと、そして初めて出場するアジアカップへの意気込みについて聞いた 【宇都宮徹壱】

 日本代表DF酒井宏樹にとって、2018年は何かと「初めて」の多い年であった。6月19日のコロンビア戦では、初めてワールドカップ(W杯)のピッチに立ち、大舞台での初勝利を味わうこととなった。11月16日のベネズエラ戦では、代表49キャップにして初めてのゴールを記録。そして今回、アジアカップに出場する23名のメンバーにも初めて選出された。

 12年のA代表デビューから7年。マルセイユでのプレーも3シーズン目となり、ハノーファー時代を含めると7シーズンにわたり欧州の舞台で活躍してきたことになる。年齢的にもキャリア的にも、すでに中堅以上となっている酒井。それでも常に次の試合に向けての綿密な準備を怠らず、試合が始まれば新鮮な気持ちでトライする姿勢に変わりはない。

 そんな酒井に話が聞けたのは昨年末、アジアカップ前の代表合宿の直前のことである。限られた時間の中、マルセイユのこと、W杯のこと、そして間もなく開幕するアジアカップへの意気込みについても語ってもらった。(取材日:12月26日)

18年は出場する大会が大きかった

──本題に入る前に、古巣の柏レイソルがJ2に降格したことについてお聞きしたいと思います。帰国した時には必ずクラブハウスに立ち寄っているだけに、非常にショックだったと思います。

 本当にショックでしたね。まさか落ちると思っていなかったので。でも、この経験はポジティブに捉えていくしかない。チームは良くなるきっかけになると、みんなで信じないといけないと思います。ただ、ネルシーニョが(監督として)戻ってくるというので、クラブハウスに遊びに行く楽しみは増えますね(笑)。

──なるほど(笑)。あらためまして、2018年というシーズンについて振り返っていただけますでしょうか。直近の話題としては、フランスのリーグアン・ベストイレブン(地元紙『レキップ』選定)にノミネートされていました。

 個人的に「トライする」という点では、これまでと変わらなかったです。ただEL(ヨーロッパリーグ)だったりW杯だったり、出場する大会が大きかったというのはありますね。(ベストイレブンのノミネートは)多くの人にプレーを見てもらったからこその評価だったと思っています。やってきたことはこれまで通りですが、やっぱりW杯出場の反響は大きかったので、あとから実感が湧いてくる感じでしたね。

──所属するマルセイユでは、コンスタントに出場していますが、一番の要因はどこにあるとご自身ではお考えですか?

 どうですかね。実力だけでなく、運であったり、環境であったりに左右されるものでもあるので。今は出場機会が多いですけれど、そうではなくなることも覚悟しながら今はプレーしています。個人的に心がけているのは、試合前の準備。DFは受け身のポジションですから、(対戦相手の)情報が重要になりますし、試合の時も悪い意味でのサプライズがないように臨むようにしています。そこについては、ドイツでの4年の経験も間違いなく影響していると思います。

──チームメートとのコミュニケーションは、まったく問題ないですか?

 言葉については今でも難しいですね。母国語で話せるわけではないので、ピッチ上やピッチ外での普段からの態度だったり、気持ちを前面に押し出す部分だったりで(足りないところは)補うようにしています。ただ、マルセイユの街と人は気に入っています。いいプレーを続けているうちは、皆さんの対応もいいですし(笑)。

ああ、これがW杯なんだ

W杯のコロンビア戦で「ああ、これがW杯なんだ」と感じたと話す 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

──先日、NHKで「ロストフの14秒」のドキュメンタリーが放映されました。酒井選手もインタビュー取材を受けていましたが、劇的な逆転負けを喫したベルギー戦を消化するのに、やはり時間がかかったのでしょうか?

 あの番組の撮影は、8月くらいだったんですよ。(新しい)シーズンが始まってすぐくらい。その時まで(試合映像は)見ていなかったですね。最近オンエアーがあって、また久しぶりに見ましたけれど、負けた試合というのは(映像で)見るよりも、自分の頭の中に残っているんですよね。それに「思い出したくない試合」というわけではなくて、実はそんなに嫌な記憶でもないんですよ(苦笑)。あのベルギー戦だけが、自分にとって特別というわけでもないです。

──なるほど。では、W杯4試合で特に印象に残っている試合は?

 やっぱりコロンビア戦は、自分の中で感慨深いものはありましたね。ホームでもアウェーでもない、中立的なスタジアムの独特の雰囲気の中で、新鮮な緊張感はありました。「ああ、これがW杯なんだ」っていう。初戦は少しストレスがかかっていたというか、ひとつのパスでも強弱がずれるとか、そういう細かいミスはあったかもしれないです。第2戦からは普段どおりにできましたけれど。

──大会後、日本代表は森保一監督による新体制となりました。ご自身のチーム内での役割に変化はありましたか?

 今までと同じですね。立ち位置が変わっても、自分自身の振る舞いを変える必要はないと思います。自分にできることをやりながら、若い選手が困っているのであれば、もちろん手助けはします。でも年齢は関係ないとも思っていますし、僕が困ることだってあるでしょうから、そこはお互いに助け合っていければいいかなと。

──森保体制となって初のスタメン出場となったベネズエラ戦では、代表49キャップ目にして初ゴールを決めましたね。

 今も昔も、そこまでゴールへのこだわりはないです(苦笑)。サイドバック(SB)であればアシストだったり、失点ゼロであったり、そういう部分で貢献することが大事ですので。移籍ウインドウでも、一番評価されるのはアシスト数と(出場)試合数なので、そっちのほうが僕のこだわりは強いです。

──とはいえ、初ゴールはやっぱりうれしかったですよね?

 もちろん(笑)。試合後は、いろいろな人からメッセージをもらいました。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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