天理大、帝京大の連覇を止める歴史的快挙 「緊張をチームとしては超えていた」

斉藤健仁

夏合宿の帝京大戦で感じた課題

帝京大のエースであるFB竹山晃暉に対して、ダブルタックルで止める天理大 【斉藤健仁】

 不安視されている部分もあった。帝京大の4年生FWを中心とした、縦に強いアタック、接点のプレッシャーに対抗できるか、だった。帝京大のブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)は激しく、アタックでもLO秋山大地主将(4年)を軸にFWの選手がくさびを打って、空いたスペースをしっかり使うという攻撃スタイルだった。

 ただ、この部分では夏合宿での帝京大戦の経験が生きる。「敗因の一つはブレイクダウンだとわかっていた。その部分を、関西のリーグ戦を通して修正していった」と島根主将が言えば、小松監督も「(帝京には)ブレイクダウンの強さ、厳しさを感じたので、特にそこにこだわって、徹底的に強化しました」と口をそろえた。

 準決勝は「ジャージに誇りを持って楽しんでやる」をテーマに、前の試合で課題となったディフェンスとブレイクダウンを意識し臨んだ。「フィジカル勝負をしにいったことが得点につながり、ディフェンスでは何回も起き上がってリアクションした」と島根主将が言うとおり、FWの平均体重で9.75kgも軽いFW陣だが、運動量で上回り、まったくそれを感じさせないパフォーマンスを見せ続けた。

帝京大・秋山主将「まとまりで帝京の8人が崩された」

涙を流す選手をねぎらう帝京大FB竹山(左)と岩出監督 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 前半6分、ポッドで大きくボールを動かすと、右サイドを破ったCTBフィフィタに弾き飛ばされた帝京大SO北村将大(2年)が脳しんとうの疑いがあるとして交替。やや弱気となった相手に対して、隙を見逃さず、11分にエースWTB久保直人がトライ。19分には、武器としていたスクラムを押し切り、ペナルティトライで12対0とリード。その後は帝京大にゴール前まで攻められるが、ディフェンスで粘り、前半を折り返した。

 後半、選手交代を含めて動いてきた帝京大にトライを許し、12対7と5点差に追い詰められた。だが、「自信を持っているところでプレッシャーをかけられた」と島根主将が言うとおり、体の小さなチームが、スクラムで4度のペナルティを誘って完全にゲームの主導権を握った。

 PR加藤が「相手は重さがあり、バインドで乗せてくる感じだったので、最初の2本は押せず、一筋縄ではいかなかったですが隙はあった。バックローも膝の高さ1cmとかこだわっていて、(第一列の)僕らだけでなく後ろの強さもあるので押せた」と言えば、帝京大の秋山主将は「天理大のスクラムはまとまりがあり、低い。8人で組まれ、一回当たってから、次のセカンドプッシュがすごく強くて、まとまりで帝京の8人が崩された」と肩を落とした。

「アタックは継続していれば絶対通用」

攻撃の司令塔として、キッカーとしてチームを支えたSO松永拓朗 【斉藤健仁】

 後半13分には、プレー中からモールを組んでCTBフィフィタが中央に飛び込んだ。18分にはスクラムを起点にWTB久保が抜け出し、最後はNo.8マキシが押さえて26対7としてほぼ勝負を決めた。「相手のフィジカルレベルが高いので、どれだけ自分たちがゲインしサポートすることが大事。3人でいっしょに攻めるとか、相手がついてこられないアタックをするということを意識していた」(マキシ)

 前の試合でケガを負ったが、それを感じさせないプレーを披露した司令塔の松永は「FWがスクラム、セットピースで圧倒してくれたのでやりやすかった。とにかくディフェンスで我慢して、ペナルティをとって敵陣という自分たちのやりたいラグビーができた。その中で、アタックは継続していれば絶対通用するという気持ちがあってゲームプランどおりにいったと思います」と胸を張った。

 攻撃するしかない帝京大に対して、最後まで集中力を保ったディフェンスを続けた天理大は、29分にもSO松永がPGを決めて29対7としてノーサイド。3度目の挑戦で天理大は、帝京を9連覇で止めるという歴史的快挙を達成した。

小松監督「決勝でも自分たちの力が出せるように」

大学選手権決勝に向けて「自分たちの自信を持っているところで勝負する」と島根主将は語る 【斉藤健仁】

「30年以上出ていない、関西からの大学日本一へとチャレンジを続ける」と小松監督が言い続けているとおり、ターゲットは1月12日の明治大との決勝戦に勝つことだ。「自分たちの自信を持っているところで勝負する」と島根主将が言えば、小松監督は「帝京大に勝てたことは大きいが、あくまでも日本一を目指しているので、決勝でも自分たちの力が出せるように引き締めて準備していきたい」と冷静に先を見据えた。

 過去54回の大学選手権の歴史の中で、関西勢が王者に輝いたのは同志社大の4度のみ。天理大がラグビー部史上初めて、そして1984年度以来の関西勢の大学王者になることができるか。関西の黒衣軍団が「一手一つ」のスローガン通り、チーム一丸となって頂点に挑む。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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