スコアは6−1の大差でも… 選手権2回戦に見る「レベルの平準化」
空気を変えた立正大淞南の「必殺技」
立正大淞南は那覇西に6−1と大勝したが、見た目のスコアとは裏腹に内容は拮抗していた 【写真は共同】
「天然芝のグラウンドで全国大会という、精神的な圧力のある舞台になると、あんなにうちは動かされることはないんです」
前半14分にFW藤井奨也が決め、先制点を手にしていた立正大淞南ではあったが、圧倒的な運動量で繰り出すそのプレスを那覇西は簡単に剥がし続けた。MF伊佐航平、MF下地海人、MF宮城海の3選手で構成される中盤はスキルフルで、立正大淞南を苦しめた。
そんな中、同37分に那覇西がFW高良竜太朗のゴールで同点に追いつく。しかし、那覇西に勝機が出てきたように感じられた空気は、立正大淞南の「必殺技」でかき消された。
前半終了間際に、MF石橋克之が決めた得点は立正大淞南の南監督が「あそこで必殺技のスローインが出ました」と振り返るもの。対する那覇西の平安山良太監督も、立正大淞南のセットプレーについては「その怖さは分かっていた」と振り返る。だからこそ、警戒していたスローインからの失点が重くのしかかった。
1点差を追いつこうと後半開始から那覇西はよく立正大淞南を攻めた。ただ、後半26分に決定的な3点目が藤井のファインゴールで決まると、心理バランスが崩れたのか、そこからは堰(せき)を切ったようなゴールラッシュとなる。同29分に藤井がPKでハットトリックを決めると、その後はMF大西駿太、同38分にもFW草場勇斗が得点を奪い、結果的に6ー1の大差が付くことになった。試合後のスコアだけを見ると一方的に見えるが、そこまでの力の差は感じられない一戦だった。
結果だけでは伝わらない面白さ
2回戦をPK戦の末に勝ち進んだが、大津イレブンは3回戦で姿を消した(写真は1回戦のもの) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
来季、プレミアリーグへの復帰を決めている大津のチーム力は高く、もちろん個の能力も高い。湘南ベルマーレへの加入が内定している、キャプテンのDF福島隼斗をはじめ、桐光学園(神奈川)との初戦でハットトリックを達成したMF大竹悠聖といったタレントを擁する好チームだ。
対する大分は大分県リーグが主戦場で、Jリーグ内定選手も不在。歴然とした力の差があっておかしくなかったが、試合は一進一退の展開となる。
試合後、大津の平岡和徳総監督は大分に対して「中高一貫のテクニックを重視した、良いサッカーをしましたね」と舌を巻いた。常に大津が先手を取り続けた試合ではあったが、しぶとく大分が食らいつく展開に敬意を表した発言だった。
対する大分の小野正和監督も中高一貫で作っていたスタイルには自信があるようで「(細かいパスについては)中高一貫でやっていますから。三角形を作りながら短いパスで崩していくのがうちのサッカーなので」と話していた。
大津は前半31分、同44分に大竹がファインゴールで2点を奪う。シュートセンスがそのままゴールに結びつく、まさに個の力で奪った2得点だった。
一方の大分はチーム力で対抗。同37分にMF永松恭聖が、さらに試合終盤の後半32分にはMF重見柾斗がゴールを奪い、2度も追いつく健闘を見せた。逆転していてもおかしくない試合内容でPK戦にまで強豪校を追い詰めた戦いは見事だった。
中盤で試合をコントロールしたキャプテンのMF山口卓己は、すがすがしい表情で試合を振り返る。
「(大津の)ディフェンスは固かったですが、自分たちがやってきたことは間違っていなかった。優勝候補を相手に通用する。6年間やってきたことが出せて良かったと思います」
中学の時、大分中の練習に参加して「こんなサッカーがしたいな、というサッカーをしていたので」と進路を決めた山口にとって、自らの、そしてチームとしての力を示せた高校選手権だったようだ。
等々力会場での2試合は、結果だけを見ていても伝わらない内容の面白さがあった。それと同時に、サッカーのレベルが全国的に平準化されている傾向のようなものを感じる2試合だった。
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