真っすぐ、ひたむき、矢野謙次 レギュラーなき16年間を終えて

週刊ベースボールONLINE

代打の切り札としてファンに愛された矢野謙次。16年間のプロ野球生活を語る 【写真:BBM】

 一度もレギュラーにはなれなかった。それでも前だけを向いて走り続けた矢野謙次(巨人〜北海道日本ハム)のプロ野球人生。代打の切り札として何度もチームの窮地を救い、多くのファンに愛された熱き野球人。真っすぐに、ひたむきに駆け抜けた16年間をいま振り返る。

万感のラストゲーム

引退試合でのワンシーン。日本ハムでは3年半あまりのプレーだったが、人間味あるキャラクターと、野球へのひたむきさで多くの選手たちに影響を与えた 【写真:BBM】

 引退試合が行われた10月10日の千葉ロッテ戦。通算1590打席目、現役最後の打席も「代打」での出場だった。結果は痛烈なレフト前ヒット。百戦錬磨の代打職人が万感の表情を浮かべ、16年のプロ野球人生にピリオドを打った。

──16年に及んだ現役生活はどんな日々でしたか?

 長かったような、短かったような……。まだやりたかったという気持ちもあれば、その一方で日々の練習や試合に向かう準備に関しては100パーセントやり切ったなというのはあります。総括すればすごく楽しかったですし、引退試合までやっていただいて、お世話になった方たちには本当に感謝の気持ちしかないです。

──最終打席に立つ前はどんな思いが胸の中に去来しましたか?

 あの日はいろいろな感情が渦巻いていましたよね。6回に栗山(英樹)監督とコーチから「ケンジ、近ちゃん(近藤健介)のところで代打いこうか」って言われたんですけれど、ベンチでみんなも聞いているわけですよ。だから先頭のハルキ(西川遥輝)なんかは何とか僕にいい形で回そうと、いままで見たことのないぐらい力みまくっていて(笑)。結果的にアウトになってしまったんですけれど、その気持ちがうれしくてね。

──続く大田泰示選手はショートゴロでしたが、気迫のヘッドスライディングで一塁セーフになりました。

 そう、泰示がセーフになった時点でこっちはもう泣く寸前なわけですよ。それで翔(中田翔)はセカンドフライかな、たぶんゲッツーだけは避けたいからアイツは意図的に右に打ったんでしょうね。それでベンチに帰ってくるときに「矢野さん、お願いします!」と。

 いまだから話しますけれど、最後の打席で涙を流しながらというのは絶対に嫌だったんですよ。あくまでもいつもどおりにやりたくて。だから翔が声を掛けてくれたときは「バカヤロー、泣かすんじゃねえよ……」って思っていました。だからもう打席では相手よりも泣くもんか、泣くもんかという自分との戦いでした(笑)。

──ファウルで粘って唐川侑己投手のカットボールを左前に運びました。

 うれしかったですね。この日を迎える前から練習での感覚がすごく良かったので、それを最後に出せた。本当にチームメート、監督やコーチ、ファンの方に恵まれたプロ野球人生だったなって思いました。

──引退をリアルに決めたのはいつごろだったのですか?

 2018年シーズンが始まって5試合ぐらいで2軍に落ちたんですけれど、もうそのときには自分の中では決めていましたよね。まだ100パーセントではないですけれど。

──ご家族に相談は?

 その時点ではまだ話はしていません。もっとシーズンが進んでから嫁さんには先に伝えました。

──そのときの反応は?

「やめちゃうの?」とかはまったくなかったです。僕の決めたことを尊重してくれて、じゃあ次はどうするかを考えようと。その言葉はすごくありがたかったですよね。

「人の3倍、4倍やれば必ず差は埋められる」

02年ドラフトで巨人から6位指名を受けた矢野(上段左)。同期は木佐貫洋、久保裕也(前段左、右)ら 【写真:BBM】

──アマ時代に思い描いていたプロの世界と実際に入った世界は想像どおりでしたか?

 もう最初は、とんでもないところに自分は来ちゃったな、ですよ。フリー打撃で周囲の選手の打球のスピード、飛距離、バットに当たる確率を目の当たりにしたときに「なんじゃこりゃ」状態でした(笑)。

──その中で自分はこの世界でどう生き残っていこうと?

 半端ないなって思いましたけれど、国学院大のときも1、2年生のときは二部リーグでずっと5位とか6位で何をやっても上の大学に勝てない時期があったんです。それでも練習で力をつけていくうちに3、4年生になったときにはその状況をひっくり返していたので。もちろんアマとプロでは違いますけれど、人の3倍、4倍やれば必ずその差は埋められると信じてずっとやってきました。そこだけは16年間変わることなくプロでもやれたかなと思っています。

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