オランダ武者修行中の馬術・佐々紫苑 世界の舞台へ「できることは全てしたい」

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 2020年東京大会そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第31回は東京都出身、馬術の佐々紫苑(しおん/明松寺馬事公苑)を紹介する。

姉と始めた馬術 13歳で競技本格スタート

この春に早稲田大を卒業し、オランダで研鑽(けんさん)をつむ佐々紫苑。五輪や世界での活躍を目指している 【写真:中西祐介】

 佐々紫苑。現在、オランダで武者修行中の馬術選手だ。“武者修行”は女性にはあまり似つかわしくない言葉かもしれないが、佐々にはこの言葉がしっくりくる。

 佐々は都内の寺に、3人姉妹の末っ子として生まれた。馬に出会ったのは2歳の時。家族で旅行した時に観光乗馬を体験した。1周500メートルほどの距離を係の人が引く馬の背に揺られた佐々はその虜(とりこ)になった。目の前に広がった景色と、お尻に当たるゴツゴツとした痛みは衝撃的で、「もっと乗りたい、広い野原を駆け抜けてみたい!」と思ったと言う。

 不思議なことに、馬術選手には寺に生まれた者が少なくない。たとえば、2012年ロンドン五輪に出場した佐藤賢希は長野にある明松寺の長男で僧侶の資格を持ち、馬術選手・指導者として活躍するかたわら、副住職としての務めもしている。住職を務める父、正道さんは、一時は五輪を目指したこともある馬術選手で、お寺に乗馬クラブを併設している。賢希をはじめとする3兄妹は小さい頃から馬に乗って山を走り回っていた。

 佐々は13歳の時、姉とともに、明松寺馬事公苑で本格的に馬術の練習をスタート、その年に競技デビューを果たした。種目は総合馬術競技。馬場馬術競技、クロスカントリー競技、障害馬術競技の3つを同じ馬とのコンビで行うトライアスロンのような競技だ。クロスカントリー競技を行うことができる施設が少ないこともあって、日本ではあまり競技人口は多くない。だが、明松寺馬事公苑は「自然の中を馬に乗って駆け抜けたい」気持ちを満たしてくれる施設だった。

馬の魅力を語り出すと、思わず笑顔になる佐々 【写真:中西祐介】

 馬術競技において、馬は単なる道具ではなく、ともに成長する大切なパートナーである。最初のうちはクラブの馬を借りて練習し、競技に出場するが、ステップアップするにつれて、自分の馬が欲しくなる。馬術の世界では、自分の馬のことを“自馬(じば)”という。佐々が初めて持った自馬はヴァイオンデコセ。佐藤3兄妹が乗って数々の成績を収めた馬で、年齢的にピークを過ぎていたが佐々が乗るにはぴったりの馬だった。

「まさか自分の馬を持つことができるなんて思っていなかったので、とにかくうれしかったです。ヴァイオンデコセは優しくて、経験豊富で、いろいろなことを教わりました。初めて総合馬術に出たのも、初めて競技で落馬したのもこの馬でした。もうおじいさんの年齢でしたが、私が他の馬を触っていると不機嫌そうになってやきもちを焼いたり……。馬の人間くさい面もすべてヴァイオンから学びました」

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