オランダ武者修行中の馬術・佐々紫苑 世界の舞台へ「できることは全てしたい」

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新たなパートナー 瑞龍との“二人三脚”

父・昌樹さん(左)は「大学卒業から2年間は支援する」と、佐々を支えている 【写真:中西祐介】

 馬術に取り組むジュニア選手の多くは、毎年夏に行われる全日本ジュニア馬術大会、通称“ジュニ選”を目標にしている。障害馬術、馬場馬術、総合馬術の3種目それぞれの全日本ジュニア大会があり、さらに年齢に応じてチルドレンライダー選手権(10〜16歳)、ジュニアライダー選手権(14〜18歳)、ヤングライダー選手権(16〜22歳)のカテゴリーに分かれている。佐々の初挑戦は09年、総合馬術チルドレンライダー選手権だった。この時は3人が出場して3位だった。このころから、総合馬術と障害馬術の全日本ジュニア大会に毎年のように挑戦するようになった。

 初めての勝利は12年、高校2年生の時に出場した総合馬術ジュニアライダー選手権だ。パートナーは瑞龍(ずいりゅう)。馬術の盛んなドイツから日本に来た馬だ。それまではベテランの馬、言い換えるとしっかり調教された馬に乗ることが多かったが、瑞龍は違った。まだ7歳と若く、ともに成長していかなければならない。それは生き物とともに行うスポーツの楽しさであり、同時に難しさでもある。

 いろいろと工夫をすることが好きな佐々にとっても、瑞龍とのコンビは、チャレンジであり勉強だった。考え過ぎてドツボにはまり、ごく低い障害さえ飛べなくなったこともあった。その時は基礎からやり直した。1日に12頭に乗って考える間もなくひたすら障害を飛んだり、馬上でのバランスを確立するための基礎訓練を受けたりした。冬が終わって雪がとける頃には、佐々のなかで絡まっていたものもほどけていた。「こんなにシンプルなことだったんだ」と気が付いた。その経験があって、ドツボにはまることはなくなった。

 勝利から遠ざかっていた佐々が再び頂点に立ったのは15年。ヤングライダー選手権だ。この競技には、トイボーイIIIと瑞龍の2頭で参戦し、トイボーイIIIで優勝した。この馬は佐藤賢希が海外でコンビを組んでいた馬で、日本に連れてきてからは賢希の妹、泰が全日本選手権を勝った大ベテランの馬だ。この勝利は佐々に自信を取り戻させてくれた。そして翌年、ついに瑞龍とのコンビでヤングライダー選手権優勝。佐々自身は2連覇を達成した。

文武両道の大学生活 オランダで磨く腕

 この春には早稲田大を卒業。競技生活をしながら学業優秀個人賞を4年連続で受賞し、卒論も締め切り半年前の6月には書き上げた。自由になる時間を確保し、大学4年の夏からオランダを拠点に活動を始めた。馬術の本場ヨーロッパで自分を試してみたかった。両親は「大学卒業から2年間は支援する」と言ってくれた。

「大きなチャンスを与えてもらったので、できることはすべてしたい」

 競技に出場する際は、自分ですべての準備を整えて馬を積んでトレーラーを運転する。 大学卒業後から9月までの半年間は、ドイツ語の学校にも通った。学校はドイツにあり、オランダの厩舎からは車とバスで片道2時間。9時からの授業を受けて厩舎に戻るのは午後3時。それから5時までの2時間は2頭の馬でトレーニングという毎日を過ごした。おかげで日常会話なら何とかできるようになった。

 真面目な努力家、ちょっと天然、ひたむき、礼儀正しい、チャレンジ精神旺盛……。佐々を形容する言葉はたくさんある。誰もが応援したくなる選手、それが佐々紫苑であり、彼女の一番の強みではないだろうか。

実家が経営する幼稚園ではポニーを飼育している。いつでもどこでも、馬は佐々の生活の近くにいる 【写真:中西祐介】

 選手としての活動の他にもう一つ、佐々には大切にしていることがある。それは「馬という生き物、馬術というスポーツの素晴らしさを伝えること」だ。17年から日本馬術連盟の馬術アンバサダーライダーを務め、イベント出演やコラムの執筆もするようになった。彼女の飾らない言葉はストレートに人の心に響く。また、実家が経営している幼稚園ではポニーを飼育。実家ではポニーの世話もするし、子供たちがポニーに触れたり乗ったりするサポートもしている。

「これをきっかけに馬術を始めてくれる子供がいればうれしいですし、そうじゃなくても馬を好きになったり、馬をかわいいと思ってくれたりすればいいですね」

 馬が好き。20年以上前から佐々の軸はそこにある。それは、この先、佐々がどこにいても、何をしてもぶれることはなさそうだ。

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