日本が克服すべき「ダブスタ問題」 仮想中央アジアではなかったキルギス戦

宇都宮徹壱

ランキングは「ウズベキスタンより上」のキルギス

日本代表の激動の2018年を締めくくる年内最後の親善試合。相手は中央アジアのキルギス 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 日本サッカー界が各カテゴリーでクライマックスを迎える中、日本代表も激動の2018年を締めくくる最後の親善試合に臨む。11月20日の豊田スタジアムで迎え撃つのは、中央アジアのキルギス。両国の対戦は今回が初めてとなる。ロシアでのワールドカップ(W杯)以降、UEFAネーションズリーグの開始により欧州とのマッチメークが難しくなったこともあり、キリンチャレンジカップは南米もしくは北中米カリブとの対戦が続いた。ここに来てアジア、それも中央アジアのキルギスと手合わせすることになったのは、もちろん来年1月のアジアカップを見据えてのことである。

 アジアカップのグループステージで日本が対戦するのは、対戦順にトルクメニスタン、オマーン、そしてウズベキスタン。つまり、中央アジア勢2カ国と対戦する。対アジア、そして旧ソ連の中央アジアをイメージする意味で、アジアカップ初出場となるキルギスとのマッチメークは理屈としては理解できる。とはいえキルギスは、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングで190位あたりをうろうろしていた印象。果たして、まっとうな試合になるのだろうか? そう思いつつ、最新のランキング(10月25日付)を確認したら驚いた。

 キルギスは現在90位。ウズベキスタン94位、カザフスタン117位(UEFA=欧州サッカー連盟所属)、タジキスタン118位、トルクメニスタン128位となっていて、何と中央アジア5カ国で最もランキングが高かったのである。だが、今回の招集メンバーのリストを見てみると、ランキング上昇の要因が見えてこない。23名中15名が国内組、さらにそのうち11名が国内のタイトルを独占しているドルドイというクラブの所属である。欧州組は3名いるが、SCウィーデンブリュック(ドイツ4部)やGKSティチー(ポーランド2部)など、いずれもマイナークラブ。さらに「所属クラブなし」が3名もいる。

 このキルギス代表を率いるのが、アレクサンデル・クレスティニン監督。実はこの人、ドルドイの監督も兼任している。バレリー・ロバノフスキー(ソ連代表/ウクライナ代表&ディナモ・キエフ)やイビチャ・オシム(ユーゴスラビア代表&パルチザン)など、かつての旧共産圏では代表とクラブの兼任監督が存在したが、現代では極めてめずらしい。それでは、キルギス代表とドルドイは同じサッカーを志向しているのだろうか。会見で質問すると、クレスティニン監督は「代表とクラブとでは違う」と言下に否定。理由は「国内リーグと比べて国際試合では、相手のレベルとスピードが異なるから」という、もっともなものであった。

キルギスと日本、それぞれの「ダブルスタンダード」

槙野と原口以外はキャップ数1桁というフレッシュな顔ぶれとなったスターティングイレブン 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 キルギス指揮官の「代表とクラブとでは違う」というコメントは、サッカーの世界におけるダブルスタンダードを考える上で興味深い。ドルドイは1997年発足の新しいクラブだが、04年から今年までの15シーズンで6連覇を含む10回のリーグ優勝、そして8回のカップ戦優勝を誇る。とはいえ、国内無双のクラブをベースに代表チームを作っても、強豪ぞろいのアジアカップでは「弱者」として振る舞わなければならない。それは欧州でも事情は同じで、中堅国の強豪クラブもまた、チャンピオンズリーグでは同様の戦いを強いられる。これがすなわち「ダブスタ(ダブルスタンダード)問題」である。

 日本の場合、(とりあえず18年から19年初頭にかけては)逆の意味での「ダブスタ問題」を考える必要がある。前日会見で森保一監督は「W杯をスタッフとして経験させていただいて、これまで自分の経験の中でのアジアの戦いは別々で考えないといけないと思っていますし、選手の中でもそうした認識はあります」と語っている。思えば今年の日本代表は、「弱者としていかにW杯を戦うか」に注力してきた。そしてW杯後の親善試合も、ウルグアイをはじめとするW杯出場国や南米の強豪国と対戦することで、世界との距離感を意識しながらの強化と世代交代を進めてきた。

 しかしアジアカップとなれば、日本は好むと好まざるとにかかわらず「絶対的強者」として遇される。前回大会はベスト8に終わったものの、やはり最多4回の優勝という実績は揺るがない。対戦相手は綿密なスカウティングを行い、自陣で守りを固めてロングボールを蹴り込むといった、日本が嫌がるような戦いを徹底してくるだろう。だからといって今回のキルギス戦は、必ずしも仮想中央アジアという位置づけではなさそうだ。森保監督も「今は何をできるのか、どういうことを上げていかないといけないかという戦術的な部分をしっかりやった上で明日の試合に臨みたい」と語っている。この発言から、世界からアジアへの「ダブスタ問題」をどう乗り越えていくか、という問題意識が読み取れる。

 さて、この日の日本代表は「ベネズエラ戦からは大きくメンバーを替える」という指揮官の予告どおり、スターティングイレブンが総入れ替えとなった。GK権田修一。DFは右から室屋成、三浦弦太、槙野智章、山中亮輔。中盤はボランチに守田英正と三竿健斗、右に伊東純也、左に原口元気、トップ下に北川航也。そしてワントップに杉本健勇。守田と北川は初スタメン、山中は代表初キャップである。キャプテンを務める槙野(キャップ数34)、そして唯一の欧州組となった原口(同38)以外、スタメン全員がキャップ数1桁。年内最後の親善試合は、実にフレッシュな顔ぶれとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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