日本が克服すべき「ダブスタ問題」 仮想中央アジアではなかったキルギス戦

宇都宮徹壱

4ゴール以降も攻撃の姿勢を貫き通した日本

開始2分で先制点を奪った山中(右から2番目)。代表初キャップ初ゴールの最速記録を樹立 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 19時20分、キックオフ。日本の攻撃力を警戒してか、キルギスは最初から5バックを敷いてきた。しかし日本は、相手の守備の体制が整う前に早々に先制ゴールを挙げる。前半2分、ドリブルで駆け上がった北川からの縦パスに、ペナルティーエリア手前で受けた杉本が左サイドにボールを流し、フリーで走り込んできた山中が左足ダイレクトでシュート。弾道は右ポストに当たってそのままゴールネットを揺らした。山中はこれが代表初ゴール。しかも、代表初キャップ初ゴールの最速記録樹立というおまけまで付いた。

 そして前半19分には追加点。相手ペナルティーエリア左角付近からのFKを原口が蹴ると、グラウンダー気味のボールはキルギスGKパベル・マティアシュのファンブルを誘発し、そのままゴールインとなる。決めた原口は、なぜか苦笑い。一方のマティアシュは「所属クラブなし」ゆえか、判断の悪さが目立った。その後も日本はチャンスを作り続けるも、前半で3点目を決めるには至らず。伊東は左サイドからの2度の決定機を逃し、杉本のヘディングシュートは威力無くGKの正面に収まった。結局、日本の2点リードで前半は終了。

 後半になっても決め切れない展開が続く中、森保監督は後半14分に3枚のカードを一気に切った。杉本、伊東、三竿に替えて、大迫勇也、堂安律、そして柴崎岳。彼らの名前がアナウンスされるたびに、スタンドから大歓声が起こった。その2分後には、負傷した槙野が下がって吉田麻也が登場。ピッチ上を覆っていた停滞感は、ここを境に見事に払しょくされていく。待望の3点目が生まれたのは後半27分。相手クリアボールを拾った守田からの縦パスに、前線の北川が足裏でトリッキーに落とし、最後は大迫が右足を振り切ってゴールネットを突き刺す。大迫の「決めて当然」という余裕の表情が印象的だった。

 直後に日本ベンチは、北川と原口をベンチに下げ、中島翔哉と南野拓実を投入。前線のカルテットがそろい踏みとなると、ゴールに向かうベクトルはより明確となる。後半28分、大迫、南野、堂安と右方向からパスがつながり、最後は中島が右足で直接決めて4点目。代表2ゴール目の中島だが、森保体制になってからは初である。その後も日本は、中島、南野、大迫が惜しいゴールを放つなど、最後まで攻撃の姿勢を貫き通してタイムアップ。今年のラストゲームを4−0の貫禄勝ちで終えることとなった。

「新しいユニット」は積み残しとなったけれど

試合後、森保監督は「アジアカップの成績を保障するものではない」としながらも、一定の満足感を示した 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 試合後の会見。4−0というスコアについて、「アジアカップの成績を保証するものではない」としながらも、森保監督は一定の満足感を示した。いわく、「対戦相手がどこであれ、高い基準で最後まで戦い抜くことをやっていこうと伝えました。選手たちは、点差が開いて以降もチャレンジする姿勢を忘れず、自分たちで声を掛け合いながら意思統一してやってくれました」。一方、キルギスのクレスティニン監督は「日本はいつものように戦えたと思う。われわれは、それを阻止することができなかった」と率直に完敗を認めた。

 先に述べたように今回のキルギス戦には、世界からアジアへという「ダブスタ問題」の克服という隠れた注目点があった。その点については、指揮官はもちろん選手も「対戦相手がどこであれ、高い基準で最後まで戦い抜く」という共通理解のもとに戦い、しっかり結果を残したことは十分に評価できるだろう。その一方で、中島、南野、堂安、そして大迫に代わる「新たなユニット」という課題については、積み残しのままアジアカップを迎えることになった。とりわけ大迫に代わる人材は、当面の間「該当者なし」の状態が続きそうだ。

 もっとも、今回のスタメン総入れ替えは収穫もあった。初出場初ゴールの山中はもちろん、共に初スタメンとなった北川と守田もまた、チームの中でしっかり機能して得点に絡んだ。試合後のコメントも頼もしい。堂安や中島の投入に際して守田は、彼らが自由に動けるように「自分のポジションの距離感はだいぶ変えていました」。大迫のゴールをアシストした北川も「自分でトラップして(シュートで)もいいんですけれど、(得点の)確率を考えました」。代表歴が浅いとか国内組だからとか関係なく、代表の一員としての役割を堂々と果たしたニューカマーたちに、何やら明るい未来を感じずにはいられない。

 思えば北川も守田も、追加招集からの代表入りであった。山中にしても、長友佑都のけががなければ、今回招集されていなかったかもしれない。そうしてチャンスをつかんだ選手たちが活躍したことは、代表入りを目指す他の選手にも好ましい影響を与えるはずだ。森保新体制になってからの5試合は、ロシアでのW杯の記憶を良い意味で薄れさせるくらい、ニューカマーたちの躍動が目立った(7月の時点で、北川や守田の年内での代表入りを誰がイメージできただろうか)。新体制の立ち上げとしては、予想以上に理想的な展開である。その意味では、来年1月のアジアカップも大いに期待していいだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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