トライアウトに臨む前ヤクルト久古の熱意「可能性が1%でもあるなら……」

菊田康彦
 埼玉県戸田市にある東京ヤクルトの2軍球場。11月にしては暖かい日差しに包まれながら、人気(ひとけ)の少ないグラウンドで、1人の男が静かに汗を流していた。

 男の名は久古健太郎。変則的な左のサイドスローから繰り出すクセ球で、2015年には左打者を被打率2割0分7厘に抑え込み、チーム14年ぶりのセ・リーグ制覇に貢献。福岡ソフトバンクとの日本シリーズではトリプルスリーの柳田悠岐と2度対戦し、いずれも三振に斬って取った。

 だが、その久古も今年はプロ8年目で初めて1軍登板ゼロ。シーズン終盤の10月2日に、球団から戦力外通告を受けた。

トライアウトを目標にして、前向きに

久古はヤクルトで8年間プレー。左のサイドスローから繰り出すクセ球が持ち味の投手だ 【写真は共同】

「(シーズンの)最後のほうは、けっこう心の準備をしながらやってたんで……。『やっぱりな』というか『自分はここまでかな』という気持ちも正直あったんです」

 今年の5月で32歳になった“左キラー”は、淡々と振り返る。野球をやめたとして、これから先の人生のほうがはるかに長い。養わなければいけない家族もいる。ここで野球人生にケリをつけ、違う仕事に就こうか――。そんなふうに考えたこともあった。

「続けたくても続けられないというのがこの世界で、どこかで気持ちの整理をつけなきゃいけない思いもあって、そういうこと(引退)も考えてはいたんです。でも家族と話したり、周りの方と連絡を取る機会があって、そこでやっぱり野球をもう1回やりたいなって」

 戦力外を通告されたとはいえ、野球を続ける可能性がついえたわけではない。そのことに気づいてからは、自分でも驚くほど前向きな気持ちになれたという。

「自分で踏ん切りをつけるよりは、やれるところまでやって、それでダメなら(仕方ない)と思うようになって。可能性が1%でもあるなら、自分でその可能性を断っちゃいけないなという思いが少し出てきたんです。そこの気持ちの整理ができてからですね、前向きになれたのは」

 そこで1つ目指すものが見えた。今月13日にソフトバンクのファーム施設・タマホームスタジアム筑後で行われる、プロ野球12球団合同トライアウトだ。

「戦力外(通告)を受けてから、純粋に野球を楽しむという気持ちを忘れてたところがあったんです。純粋にもっとこういうふうに投げたい、もっと良くなりたいって考えるようになってから、すごい前向きに練習ができている。だから、どうなるかわからない状況ですけど、トライアウトという目標を作れたことで毎日すごく充実しています」

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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