トライアウトに臨む前ヤクルト久古の熱意「可能性が1%でもあるなら……」

菊田康彦

不整脈発症も「今は心配ない」

ルーキーイヤーの2011年は52試合に登板し、5勝20ホールド1セーブを記録。チームのCS出場に貢献した(写真は8月21日の巨人戦、初セーブ時のもの) 【写真は共同】

 久古は国士舘高、青山学院大から日産自動車、日本製紙石巻を経て、11年にヤクルトに入団した。ドラフト5位ながら即戦力として活躍し、7月から9月にかけては当時のセ・リーグ新人新記録となる22試合連続無失点をマーク。チームは終盤の失速で優勝こそ逃したものの、2年ぶりのクライマックスシリーズ出場を果たした。

「何もわからない状態で(プロに)入って、そこでいい先輩だったり、チームの皆さんがいてくれたから、自分も思いっきりプレーできたんだと思います。そこはホントに感謝したいですね。あの1年目がなかったら、僕の野球人生はもっと早く終わっていたと思います」

 この年は52試合に登板して5勝2敗1セーブ、防御率3.65の成績。20ホールドと25ホールドポイントは、いずれも新人としてはリーグ歴代2位(当時)の数字だった。そのオフには左手血行障害の手術を受けたものの、13年に38試合の登板で2勝1敗9ホールド、同2.76と復活。15年はシーズン終盤に“勝利の方程式”の一角に食い込んで、前述のとおりチームのリーグ優勝に貢献した。

 ところが、昨年は右ふくらはぎの肉離れによる出遅れが響いて、わずか6試合の登板に終わると、今年も春のキャンプで思わぬアクシデントに見舞われる。巨人との練習試合で登板前に投球練習を行っていたところで、不整脈を発症。その数日後にも同じ症状が出たため、キャンプ中に離脱を余儀なくされてしまったのだ。

「(不整脈が)最初に出たのは2年前ぐらいだったんですけど、今までは試合で出たことはなかったんです……。ただ、その後の検査でそんなに悪いモノではないとわかったし、春先以降は出なかったので、今は心配はないです」

 ファームでは48試合に登板するなど、体調になんら問題はなかった。6月の終わりから8月半ばにかけて10試合連続無失点を記録したこともあったが、最終的には防御率4.03。最後まで1軍に呼ばれなかったのは、自分自身でも納得がいくピッチングができなかったことに尽きると、久古は話す。

「(ファームの)試合で投げているボールだったり結果だったりというのは、自分でも全然納得できるものではなかったので、呼ばれなくてもしょうがないかなというのは……。求められるものには達してなかったと思います」

戦力外はマイナスだけじゃない

 戦力外通告――その言葉の響きは重い。ただし、それを経験してある程度の時間が経つと、受け止め方に変化も生じてきたという。

「戦力外になってからいろいろな方と連絡を取って、『何か手助けできることがあれば』とか言ってもらったりすると、素直な感謝の気持ちだったり、ホントにたくさんの人が応援してくれてたんだというのを感じることができました。戦力外って世間一般にはマイナスのイメージしかないと思いますけど、そういうイメージを覆したいというか……。マイナスだけじゃないって」

 今の目標は、まずは目の前に迫ったトライアウトでベストを尽くすこと。その先にあるのは、もう一度NPBの舞台で投げることだ。トライアウトを経てNPB球団との契約にこぎ着ける可能性は、決して高くはない。それでも、どんな状況でもあきらめずに全力を尽くすことは、野球だけに限らず今後の人生においても大きな意味を持つと考えている。

「あきらめないで最後までやり抜くということで、もし野球(人生)がつながってまた1軍で活躍できるようになれたら、自分の中でこれ以上大きい体験はないと思うんですよ、今後の人生においても。どんな仕事でも、自分で壁を作ったり、限界を作るのは簡単ですけど、そこを突破する何かを常に探すことというのが自分の成長にもつながると思うんです」

 どこかひょうひょうとしたピッチングスタイルとは裏腹に、その胸の奥には熱いものが秘められている。そこには、これまで応援してくれたファンに対する思いもある。

「ヤクルトってホントにファンの方と(距離が)近いと思うんですよ。スタンドからの声援も、もちろん大きいんですけど、間近で『頑張ってください』とか『どこどこから来ました』とか、そういう血の通った会話ができるというところで、勇気づけられました。2軍にいる時も『神宮で待ってます』という言葉に支えられたので、ホントに感謝しています」

 ユニフォームは変わっても、必ずもう一度1軍で投げる――。それはファンに対する恩返しにもなるはずだ。たとえ1%だったとしても、可能性がある限りはそれを信じて、久古はトライアウトのマウンドに上がる。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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