久保裕也にしかできないプレーの狭間で 残留が目標のニュルンベルクでの思い

中野吉之伴

欧州に来て初めての残留争い

初めての残留争いだが、チームに守備をすごく求められるのは久保も分かっている 【Getty Images】

 チームの立ち位置、現状を考えると誰もが守備に汗をかくのはやらなければならないことだ。世界のトップクラスのクラブでは走れないオフェンシブな選手はほとんどいない。「攻撃だから」「守備だから」と自分の役割を縦割りに考えることはもはやできない。ボールを奪うことも、体を張ることも、長い距離を走って戻ることも、懐に飛び込んで体をぶつけ合うのも必要だ。久保も守備をすごく求められるのは分かっているし、それがなければ試合にならないことも分かっている。

 だがそのチームのためのプレーだけに落ち込んでしまうのも違う。久保には久保にしかできないプレーがある。攻撃のリズムを作り出し、変化を加え、ゴール前で相手を追い込むプレーだ。

 久保が入るとニュルンベルクの攻撃が良くなるのは間違いない。だが良くなった結果、ゴールが生まれ、そして勝利につながらなければそのメリットはプラスとしてとらえられない。攻撃は回るようになったけれど、守備が……では残念ながら厳しいのだ。守りを整え、ハードワークにいそしみ、カウンターやセットプレーからゴールを奪い、辛抱強く勝ち点を積み重ねることが、残留につながるのであれば、監督は間違いなくそっちを選択する。

 久保にとって、欧州で残留争いをするのは今回がはじめてだ。これまでのヤングボーイズやヘントは上位争いをしていたクラブだった。

「チームの状況が全く違うなというのはあります。ヘントにいたときは、ヤングボーイズの時もそうですけれど、リーグの中では常に勝てるチームがあったので、チャンスも多かったですし、攻撃の部分で自分が力を発揮できればよかった。こういう残留争いをしているチームはやっぱり守備から入らないといけないので。そこの違いはあるかなと思います」

前提条件でしかない守備での貢献

守備で貢献できれば、久保が試合に出られる可能性も高まるだろう 【Getty Images】

 守備をしなければならないし、守備で貢献できれば試合に出られる可能性も高まるだろう。それは課題であり、義務であり、仕事だ。でもそれさえできればいいと思ってしまったら、オフェンスの選手としておそらく終わりだ。ハードワークは前提条件でしかない。その先にあるものを視線から離してはならないのだ。

「自分は攻撃の選手。やっぱりボールを受けたときのクオリティーとか違いを見せるしか、そこをよくするしかないかなと思います」

 ドルトムント、ライプツィヒ、ホッフェンハイムというクラブとの対戦を終えた後でも、「クオリティーはすごい高いですけれど、自分たちがボールを持った時にやれないわけではない。そこをもっと上げないといけないと思います」と自信を口にする。

「このチームだと攻撃陣は数少ないチャンスをものにしないといけない。僕はまだ1点も取っていない。そういう目に見える結果を少ない(チャンスの)中で残していけば、たぶん試合にも使われ続けるかなと思っています」

 やはり求められるのは監督やチームメートを納得させるだけの材料だ。結果とはゴールやアシストの数字のことだけではない。それ以上に久保が入ることでチームが生き生きし、攻守の歯車がかみ合い、勝利に近づくという印象を持ってもらうことが大切なのだ。そしてそれができたとき、ニュルンベルクは目標の残留に大きく近づくことができるのではないだろうか。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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