久保裕也にしかできないプレーの狭間で 残留が目標のニュルンベルクでの思い

中野吉之伴

シーズン序盤は好感触も……

シーズン序盤は久保のプレー時間も多く、自分たちから仕掛ける姿勢を持っていたニュルンベルクだったが…… 【Getty Images】

 残留争いをするチームはどこかで腹をくくらなければならなくなる。シーズン最初はオフェンシブなコンセプトも明確に持とうとするし、そのためのシステムや選手配置を考える。だが負けが重なるとそこに気を配る余裕がなくなってくる。まずは守備だ。徹底した守備意識だ。チーム全体が一丸となって全身全霊で走り、戦い、守り続けなければならない。

 ニュルンベルクもそうだった。シーズン序盤は自分たちから仕掛ける姿勢を持っていた。2節のマインツ戦では後半から久保裕也をトップ下に置く攻撃的な4−4−2にシステム変更をし、試合の流れを自分たちで取り戻し、同点に持ち込んだ。勝ち越せなかったのは反省材料だが、感触は悪くなかったはず。

 『ビルト』紙も「久保はボールを収め、インテリジェンスなパスを送り、ボールを失うことがなかった。ニュルンベルクが放った19本のシュートのほとんどは久保が起点となっていた」と高評価。4節ハノーファー戦では初勝利に貢献した。

 だが5節ドルトムント戦では一方的に押し込まれ、チームとして何もできないまま0−7と大敗。監督のミヒャエル・ケラーは考え方を変えざるをえなかった。6節フォルトナ・デュッセルドルフ戦にはハードワークができる選手とスピードのある選手を並べて3−0で勝利し、解決策を見つけたと思われた。だが、続く7節ライプツィヒ戦はまたしても0−6と一蹴されてしまう。

「チームがもっと攻撃的にならないと」

 代表ウィークの中断期を経て守備への傾向はさらに高まっている。8節ホッフェンハイム戦では4バックと3枚の中盤すべて走って戦えて守れる選手が起用された。

 前線で起用される選手はボールを収める、流すことができるセンターFWタイプとスピードで裏抜けできる選手のコンビネーション。いわゆる「一発」のある選手。プレー精度が低くても、味方へのパスがぶれてしまっても、1試合に1〜2回のチャンスで危険なプレーができればそれでいい。その通りの試合展開を目指し、その狙い通りの前半の戦いぶりを見せた。屈強なCFミカエル・イシャクにボールを当て、ヴァージル・ミシジャンのスピードにかけて相手守備ライン裏へパスを送る。先制ゴールもそうやって奪った。守備陣からのロングボールでミシジャンが抜け出すと、ペナルティーエリア内で競り合った相手DFに倒されてPKを獲得。これをキャプテンのハノ・ベーレンスが確実に決めた。沸き上がるスタジアム。前半はハイテンションのまま試合を進めることができた。

 だが、後半は目に見えて運動量もプレーのクオリティーも落ちてきた。攻撃的な布陣に変更したホッフェンハイムに押し込まれ、そのまま1−3の逆転負け。攻撃陣はまったくいいところがない。変化が必要だ。だが、久保に声がかかったのは86分という遅い時間滞だった。パスを引き出してリズムを作ろうとするがいかんせん時間がない。

 チームの戦い方について試合後、尋ねてみた。試合内容にも自分の起用法にも納得いっているわけがない。だが落ち着いた口調で現状を語ってくれた。

「チームがもっと攻撃的にならないとだめかなと思います。攻撃的な選手があれじゃエネルギーがなくなっちゃうと思う。守備だけに追われて、攻撃の部分でパワーを使えないという状況が続いていたかなと思いました。後半は特に引きすぎていましたし。あと、自分たちがボールを持った時の攻撃がなさすぎたかなと」

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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