1年後に迫ったラグビーワールドカップ 組織委員会のチームづくりとは?
今回は大会に向けた組織づくりというテーマで、ラグビーワールドカップ2019組織委員会で人事企画部の主任を務める佐藤洋平氏を招き、ラグビージャーナリスト・村上晃一さん進行のもと講演が行われた。
心に根づいたラグビーの代名詞
「2005年に大学選手権で早稲田大学と戦った時、126点も取られたんですよ(0−126で敗戦)。自分が『調子に乗っていた』ということに気づいて、その時から強い組織とは何かをすごく考えるようになりました。その時に僕の中で出た結論は、とにかく仲の良くて一体感のあるチームを作ろうと、強烈に考えたのを覚えています」
大学最後のリーグ戦では8チーム中4位に終わるも、強豪・同志社大学を破るなど、一体感を追求することでチームとしての結果も残すことができた。その後佐藤氏はラグビーを引退し、経営コンサルティング会社「リンクアンドモチベーション」に入社。しかし、ここでも根幹となった考え方に、ラグビーの代名詞が大きく関係した。
「創業者の方がラグビーをしていて、『One For all,All For one』という用語を世界で最も真面目に追求しているような会社でした。学生の頃は選手の気持ち、つまり『One』に寄り添いすぎて、『All』とのバランスが取れていなかった、ということに気づきました」
「One For all,All For one」の精神を胸に、大手企業向け営業チームのリーダーを務ながら、研修講師としての業務なども行った佐藤氏。2015年にイングランドで行われたラグビーワールドカップを現地で観戦したことをきっかけに、公募から組織委員会に入ることになった。
組織委員会のプロジェクトの進め方
ただ、ある時期を境にそれまで縦割り型だった組織が、横軸を通した組織に大きく組み変わるのが組織委員会の特徴だ。たとえばスタジアムの設営や会場での販売など、それぞれの部門が作り上げたプランを「東京スタジアム」という横軸に当てはめ、実際に機能するかどうかを検討するのだ。
組織の仕組み自体を180度変えることによってプロジェクトをまとめ上げるという手法は、他競技のグローバルスポーツイベントにおいても世界的に浸透しているという。
2015年イングランド大会のような一体感を作りたい
イングランド大会では、実際に働く人たち全員のモチベーションを上げるようなビデオを見せることによって、一体感を作り出していた。佐藤氏も「ハンドブックなどに落とし込んで、各自が持って帰れるようなものを作りたい」と、読むことで目指す世界観が伝わるような教材を作成中だ。
団結したチーム作りを目指す上で、大切にしているのがボランティアプログラムの名称にもなっている「ノーサイド」の精神。佐藤氏は対極の言葉を考えることによって、ラグビーになじみが薄い人でも意味が伝わりやすくなるよう試みている。「『ノーサイド』の最も遠いもの、対極に位置づけられるものって何だろうと考えました。例えば、地元の人が外から来た人に対して『よそ者』と言うとか、そのような状態は実現したい世界観から最も遠い状態だと思っています」。そういった壁を作らず全員で声をかけ合い、来場者にポジティブなエネルギーを与えられるかが成功への鍵になりそうだ。「組織委員会としての想いを押し付けすぎるのはよくないですが、バランスを取りながら『One For all,All For one』を実現できるかが最大のテーマです」と、佐藤氏は講演を締めくくった。