メッシの活躍で揺らぐザ・ベストの定義 個人よりチームの結果を重視する傾向に?

今もバルセロニスタの希望

決してチームがいい状態ではない中、メッシはバルセロニスタの希望であり続けている 【写真:ロイター/アフロ】

 バルセロナとエルネスト・バルベルデ監督は現在、決して最高とは言えない状況にある。ラ・リーガでは4試合未勝利が続いており、そのうちカンプノウではジローナ、アスレティック・ビルバオと引き分けている。

 ただ、今季最大の目標としているチャンピオンズリーグ(CL)に限っては、全くもって状況が異なる。ホームのPSVアイントホーフェン戦、トッテナム・ホットスパーとのアウェーともに、快勝を収めているからだ。

 今季のバルセロナは長年中盤を支えてきたアンドレス・イニエスタを失ったことで、伝統のプレースタイルに、少なからず変化が生じている。質の高い選手をそろえてはいるが、以前とは異なる形でゴールを目指す必要に迫られているチームにとっては、バルベルデ監督にリスクを冒さない保守的な采配が目立つことも、攻撃面で思い切りの良いプレーをする上で障害となっている。

 このような状況下、バルセロニスタの希望となっているのが31歳で迎えたプロ15シーズン目も衰えを感じさせないリオネル・メッシだ。これまで親善試合を合わせてプロ通算1050ゴール以上を積み重ねて来た彼は、シーズンを追うごとに1つのポジションに縛られないトータルプレーヤーとしての色合いが濃くなっている。

高い決定力は31歳になった今も健在

メッシは31歳になった今も、際立ったパフォーマンスを見せている 【写真:ロイター/アフロ】

 通常メッシくらいの年齢になれば、ほとんどの選手は衰えが見えてくるもの。だが、彼の場合は単純にプレーポジションが刷新されているだけで、天賦の才に陰りが見えることはない。先日、トッテナムとの対戦で訪れたフットボール界の聖地の1つ、ウェンブリー・スタジアムでの活躍もそうだった。

 昨季に同じ場所でレアル・マドリーを打ち負かした難敵トッテナムに対し、メッシは素晴らしいコンビネーションプレーから生まれた2ゴールを決めただけでなく、先制点につながるスルーパスを通し、フランス代表GKウーゴ・ロリスを打ち破った2本のシュートを左ポストに当てている。

 今季のメッシはこれまでラ・リーガ、CLの10試合に出場し、11ゴールを挙げてきた。異例の1試合平均1ゴール以上のペースを維持していることだけで驚異ながら、特筆すべきは、彼がフィニッシュ役に専念しているわけではないことだ。自らチャンスをつくり出し、極めて高い決定力を発揮することで、彼はこれだけ多くのゴールを積み重ねているのである。

 これだけ際立ったパフォーマンスと結果を出しているにも関わらず、メッシが「ザ・ベスト(FIFA/国際サッカー連盟の年間表彰式)」にノミネートされなかったことは不思議でならない。今回の「ザ・ベスト」にノミネートされたのはルカ・モドリッチ、クリスティアーノ・ロナウド、モハメド・サラーの3人だった。

 メッシがこのような個人賞の最終候補に残れなかったのは2006年以来のことだ。これは個人の記録やパフォーマンスより所属チームの結果を重視する傾向が強まっていることの表れのように思える。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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