メッシの活躍で揺らぐザ・ベストの定義 個人よりチームの結果を重視する傾向に?

サラ―やモドリッチの方が優れていた?

「ザ・ベスト」はチームではなく個人に対する賞だったのではないか 【写真:ロイター/アフロ】

 昨季バルセロナはラ・リーガとコパ・デル・レイの二冠を制したものの、CLは準々決勝敗退に終わった。ワールドカップ(W杯)に臨んだアルゼンチン代表も低調なパフォーマンスの末に決勝トーナメント1回戦で敗退している。

 しかしながら、「ザ・ベスト」はチームではなく個人に対する賞ではなかっただろうか。たとえばエデン・アザールが最優秀選手に選ばれるためには、チェルシーかベルギー代表で何らかのビッグタイトルを獲得しなければならないのか。そうでなければ投票権を持つ専門家たちは、メッシよりサラーやモドリッチの方が個人として優れていたと考えているのだろうか。

 メッシがウェンブリーで見せた活躍により、これらの疑問はさらに大きく膨らんだように思える。個人レベルで唯一ライバルとなり得たクリスティアーノ・ロナウドがイタリアへ移籍したこともあり、今季も彼は自身の限界を乗り越えるという孤独な戦いに身を投じている。それでもそのタレントは少しも色あせる気配がない。

ウェンブリーの90分間であらためて価値を証明

メッシはウェンブリーの90分間で、世界最高のプレーヤーであることを証明した 【写真:ロイター/アフロ】

 若い頃と比べ、近年のメッシはボールに触れる頻度が減り、個で魅せるプレーが少なくなったという意見はあるし、アルゼンチン代表でW杯を勝ち取れなかったことを指摘する声もある。

 一方で、メッシは歳を重ねるごとに賢さを増してきたと主張する者もいるはずだ。現在の彼は個人の力に頼らずチームメートを生かし、素早く正確な判断力を駆使することで、肉体に過剰な負担をかけることなくライバルを出し抜くすべを心得ている。

 いずれにせよ、テクニックに関してメッシを上回る選手が出てくることはまずないだろう。モドリッチやサラー、アザール、ロナウドなど、トップレベルの選手が1シーズンを通して素晴らしいパフォーマンスを見せることはある。だが彼らがいかに優れたクラックであっても、1試合平均1ゴールという驚異のペースを維持しながらプロとして1000試合以上を戦ってきた天才にはかなわない。

 たとえ今年は無冠に終わったとしても、メッシが世界最高のプレーヤーであり続けていることに変わりはない。ウェンブリーでの90分間がそのことをあらためて証明したことで、「ザ・ベスト」の定義は大いに揺らぐことになった。

(翻訳:工藤拓)

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント