連載:指導者として

【戸田和幸連載(7)】頭と身体をリンクさせることが重要 試験休み中に実施した「初めての試み」

戸田和幸

「来るもの拒まず」で得られる刺激と学び

指導現場を誰かに見てもらうと良い緊張感が生まれ、感じた事をフィードバックしてもらう事で、自分の指導を客観視する事が出来ます 【宇都宮徹壱】

 戸田和幸です、今回が7回目のコラムとなります。
 このコラムを読んでくれている方達の中から、もしくは指導者仲間も含め、自分の指導に関心を持ちわざわざ練習を観に来てくれる、または観に行きたいという連絡をもらう事が度々あります。
 貴重な時間を割き、僕が考えて選手に提供するトレーニングを見に来てくれる。とてもうれしい事です。

 指導現場を誰かに見てもらう。
 指導者ライセンス講習会での指導実践を思い出しますが、誰かに見られると良い緊張感が生まれます。そして見て感じた事をフィードバックしてもらう事で、自分の指導を客観視出来ます。

 日々向き合ってきた選手達からフィードバックをもらう事も可能ではありますが、実際はなかなか難しく。
 彼らの取り組む姿勢やパフォーマンスの変化が一つの指標となりますが、言葉として自分の考えるトレーニングをどう感じているのかを聞き出すことは、選手と指導者の関係を考えると簡単ではありません。

 だからこそ、時にJクラブのスカウトマンやコーチまでもが自分のトレーニングを見に来てくれ、トレーニングの感想や感じた課題を口にしてくれる事は、今後の指導者人生に向けてとても貴重で有難いものになっています。

 またプロ選手だけれども現在所属がない選手や、直接面識はない慶應義塾大学ソッカー部のOB選手から連絡をもらい、自分のチームの練習に参加したいという申し出を受けることもあります。
 こちらは一貫して「来るもの拒まず」の姿勢ですから喜んで受け入れますし、Cチームの選手達にとってはこの上ない刺激と学びを得られる機会になっています。

 チームとして継続したコンセプトに沿って、選手個々人とチームの強化を図っていますが、時にそういった「異物」が入ることで、選手達の頭と心は大きな刺激を受けると思っています。
 自分達よりもサッカー選手としての能力が高い先輩OB、もしくはプロ選手と共にサッカーをする。それぞれの中にある目的意識や上昇志向が試される瞬間ですが、こういった機会をきっかけにグッと伸びを見せる選手も出てきます。

 そういった意味では、指導者から与えられる日々のトレーニングやメッセージが重要なのは当たり前だとして、通常一緒にボールを蹴る事は出来ないような人が目の前にいて、共にボールを蹴り、アドバイスを受けるという経験が選手の意識やパフォーマンスを瞬間的に引き上げるという事を知りました。

チームコンセプトを忘れてしまわないように

 前回のコラムでは、通常時期のスケジュールと学業との両立の難しさについて紹介させてもらいました。せっかくなので、夏休みに入ってからの話も紹介させてください。

 慶應ソッカー部は7月の中旬から8月の頭まで試験休みとなりました。
 基本的にチーム毎のトレーニングはなし、個々人が各々のタイミングで体を動かす事で中断以降の合宿と遠征に備えるというスケジュールでしたが、Cチームに関しては自分の発案で、試験の準備が終わった頃を見計らって希望者を募り、一定人数(10人)以上が集まった日は日吉のグラウンドでトレーニングを行うという形を採りました。

 理由は二つ。
 一つはコンディションの維持、そしてもう一つはチームコンセプトを忘れてしまわないようにする為でした。
 個々人で体を動かすといってもやれることには限界があります。であれば、トレーニングを再開した時に7、8割のコンディションで入っていけるようにと考え、選手に提案をしました。

 また僕が選手達に伝え求めてきたサッカーはある種、特殊な部類に入るものとなります。再開後、身体はすぐに反応できなくても頭の中には出来る限り2月から取り組んできたものは留めておきたい。それもあって試験が始まって以降のタイミングで希望者を募り、2日に1度くらいの頻度でトレーニングを行いました。

 あくまでも試験期間中だという事を念頭に置いて強度は落としつつ、チームコンセプトは忘れないでくれよという意図をこめたメニューのみのトレーニングを行いました。人数が少ない時は他のチームの選手にも声掛けして、希望者がいれば一緒にトレーニングしようというアナウンスを流したところBチームからも数人、そして嬉しかったのはAチームからもトレーニングに参加したいと言ってくれた選手がいた事でした。

 縁あってCチームの指導者としてソッカー部に入らせてもらい、今日までCの選手達と日々向き合ってきました。

 自分の生計を立てているのが現状メディアの仕事だという事も若干影響はしていますが、基本的にCチームの指導を預かってきたのでBやAの選手達のトレーニングを僕が指導することはありませんでした。それが試験期間中という事情はあったとはいえ、Cチームメインのトレーニングに上のカテゴリーの選手達が進んで参加をしてくれたことは個人的にとても嬉しかったですし、Cチームの選手達にとっても直近の目標である選手達と一緒にトレーニングが出来る機会を得られたのは、とても有意義な時間になったのではないかと思います。

 試験期間中のチームトレーニングは初めての試みだったようですが、僕にとっては他カテゴリーの選手と交流を持つことが出来た事、それから上を目指しているCの選手たちにとってはAチームの選手と一緒にトレーニングが出来た事は、殊更に意味がありました。

 試験期間中に他カテゴリーの選手も交えて実施したトレーニングは、幾つかの意味で提案してみて良かったと感じました。

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著者プロフィール

桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。プロフェッショナルのカテゴリーで監督になる目標に向けて、18年からは慶應義塾大学ソッカー部のコーチに就任。また「解説者」というサッカーを「言語化」する仕事について、5月31日に洋泉社より初の著書『解説者の流儀』を出版

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