川島永嗣の恩師が語るGKの神髄<第1回> 守護神に必須の「リフレッシュ能力」とは
あの名GKは学習能力が傑出していた
フルゴーニが「傑出した存在」と語る教え子ブッフォンは、今季からパリSGへ 【Getty Images】
他人に指示を出してそれを遂行させるという仕事を自然にこなせる性格と習慣の持ち主でなければ、いいGKにはなれないのだ。その点で、強いパーソナリティーとリーダーシップも、GKにとって非常に重要な資質である。もしDFがGKに何かを指示する場面が目についたとしたら、それ自体がすでに、GKのパーソナリティーが足りない証拠なのである。
もうひとつ、これはGKに限ったことではないが、インテリジェンス、特に学習能力の高さは、プレーヤーとしての完成度を左右する大きなカギになる。先天的にGKとしての適性と資質を持って生まれた選手は、それを自然に発揮するだけで、それなりのGKには育つ。抜群の資質の持ち主ならば、トップレベルでプレーすることも不可能ではない。ただし、本能と直感だけに頼ってプレーし、欠点を修正したり、足りない部分を伸ばしたりする学習能力に欠けている選手は、あらゆる面で完成された真のトップクラスに育つことはない。持てる潜在能力を最大限に引き出し、武器として生かすことができないからだ。逆に、GKとしての先天的な適性が抜群に秀でていなくとも、基本的な資質を備えており、常にコーチの指導を受け入れ、実行に移して積み重ね、身に付ける学習能力が高い選手は、予想以上に大きく伸びることがある。
私が指導したGKの中でも、ジャンルイジ・ブッフォンは適性と資質だけでなく、学習意欲と学習能力においても傑出した存在だった。練習の中で、私が何をするべきか説明すると、それを聞いただけですぐに全てを理解し、1回目からほぼ完璧にこなして見せたものだ。そして、言われたことをこなすだけでなく「こういう場合はどうすればいいのか」「こういう状況の時はこうしたほうがいいのではないか」と向こうから逆に聞いてくる。彼が技術的に見て世界で最も完成度の高いGKに育ったのは、才能以上にその学習意欲・能力ゆえといっていいだろう。
ファンやメディアの議題になることは少ないが……
最後尾からチームに安心感と自信をもたらせるのがトップクラスのGKだ 【写真:ロイター/アフロ】
普段、マスコミやサポーターがGKについて語ったり、議論したりする時には、反応性や瞬発力といったフィジカル能力、そしてキャッチングやディフレクティング(手の平でボールのコースを変えるプレー)といったシュートブロックの技術に焦点が当たることが多く、メンタル的な側面が話題に上ることは少ない。しかし、ここまで見てきたように、一流のGKになれるかどうかを最も大きく左右するのは、フィジカル以上にメンタルなのだ。今回、あえてそこに焦点を絞って取り上げてきた理由もまたそこにある。
もちろん、フィジカル能力もまた、テクニックや戦術的な能力と同じく、重要な資質であることは言うまでもない。それについては次回以降、「テクニック」について詳しく取り上げる中で、具体的に触れていくことにしよう。
※本連載は、2004年から05年にかけて『ワールドサッカーダイジェスト』誌に掲載された連載記事「GKアカデミア」の内容を元に再構成し、フルゴーニ氏への新たな追加取材を加えてアップデートしたものです。