「ピッチ外」で苦しめられるアジア大会 A代表でも“使える”選手だと示す好機

川端暁彦

求められる「ピッチ外」での対応力

アジア大会に臨んだU−21代表を取り巻く環境は、簡単なものではなかった 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 8月18日に開会式を迎えたアジア競技大会は「ジャカルタ・パレンバン大会」と銘打たれている。ただし、男子サッカー競技が行われているのはジャカルタでもないし、パレンバンでもない(ちなみに女子サッカー競技はパレンバンで開催されている)。

「アジアでは何が起きるか分からない。ピッチ内だけでなく、ピッチ外での対応力も求められる」

 出発を前にして森保一監督が言っていた言葉だが、案の定と言うべきか、大会に臨んだU−21日本代表を取り巻く環境は簡単なものではなかった。

 そもそもJリーグが行われた11日から中2日の14日に初戦を迎えるというスケジュールがタフ過ぎるというのもある。日本各地から成田へ移動してきた上でインドネシアへと移動していく過程も入るのだから、これはなおさらだ。12日に試合があったMF神谷優太(愛媛FC)については、初戦での起用は不可能と始めから割り切るほかない。

 到着翌日に行われた練習(つまり前日練習)もタフだった。ナイター練習が設定されていたのだが、いざ着いてみると「練習場の照明が暗すぎた」(森保監督)。グラウンド状態もかなり悪く、ボールも足元も満足に見えない状況でのトレーニングは負傷を誘発しかねない。やむなくメニューをフィジカル中心のものに切り替え、戦術的な練習をろくにこなせないまま初戦を迎えることとなった。

行徳監督率いるネパールの対策に苦戦

日本はネパールを相手に苦戦。選手からは共通の反省点が語られた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 初戦の相手はネパール。FIFAランキング(8月16日付)161位という数字が示すとおり、決して強国ではない。アジア大会は事前の予選が存在しないため、強豪と弱小が混在する大会になるから、こうした対戦も起こり得るのだ。万全でない状態であっても勝てる相手と見込んでいたが、日本から派遣されている行徳浩二監督が率いるチームは想定以上に強健で、なおかつ戦術的な狙いを明確に持った好チームだった。

 行徳監督が採ったのは、森保戦術の肝と言うべきウイングバック(WB)にサイドハーフの選手をマンツーマンで付けてこれを封じる作戦で、日本は大苦戦を強いられた。外に大きく張り出すWBが、相手のサイドバック(SB)と1対1で勝負できる状況を作るのは、森保戦術の大きな狙いの一つ。ところがネパールはSBを中央に絞らせてWBに対応させず、代わりにサイドハーフの選手を日本の両翼に貼り付けてきた。日本側のポジショニングによっては6バックにもなるシステムである。

 相手のミスをついて前半7分に得点を奪った日本だったが、試合全体としては相手の狙いにハマり続けるような流れに陥った。コンディションや事前の準備不足は当然ながら材料としてあるのだが、相手のマンツーマン戦術を打ち破る戦術的な打開策が出てこなかったのは大きな課題だった。

 ただ、こうした不具合も若い選手にとっては学びになる。たとえば、相手がWBにマンツーマンなら、その選手が相手を引き連れたまま下がってスペースを作り、後ろの選手が追い越していくというやり方もある。「そういう工夫もできればよかった」とDF杉岡大暉(湘南ベルマーレ)は悔やんでいたが、単調につなぐサッカーに終始してしまった印象は否めなかった。

 試合後に選手から聞かれた共通の反省点は、「もっと裏を使えばよかった。もっとシンプルでよかった」ということ。後ろからしっかりビルドアップしている間に、前線に5トップのように選手が張り出していくのが戦術的な狙いだが、わざわざ相手が帰陣して整うのを待つばかりが戦術ではない。また、スペースがない状況で無理矢理小技を駆使して崩しにいくよりも、シンプルに放り込み、こぼれ球に勝負をかけるプレーがあってもよかった。

2年後に向け、森保監督は「自主性」を重視

森保監督(左)は第2戦を大勝で飾った後「選手たちが自分で何をすべきか考えてくれていた」と口にした 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 第1戦での反省点を映像でも共有して臨んだパキスタンとの第2戦は、そのフィードバックをよく反映した内容になった。

 開始早々にDF岡崎慎(FC東京)が前線へ蹴り込んだシンプルなロングフィードが岩崎悠人(京都サンガF.C.)の先制点を生み出し、前半10分までに3点を奪うゴールラッシュ。その後は停滞する時間帯もあったが、4−0の大差で勝利を飾ることとなった。

 ここで森保監督が勝利以上に「僕が言うまでもなく、選手たちが自分で何をすべきか考えてくれていた」ことを喜んでいたのは少々印象的だった。

 もともと森保監督は、若い選手たちに情報を与えすぎないように、教えすぎないように気を遣っている様子が見え隠れしていた。目前の勝負を軽視しているわけではないが、目標はあくまで2年後の東京五輪。そこに向かって選手を育てることを考えての行動である。恐らくワールドカップ・ロシア大会でA代表の選手たちを目の当たりにしてきた影響もあったのだろう。今大会は特に、選手たちが自主性を発揮することを期待する雰囲気が強まったようにも見えた。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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