ルイス・エンリケに代表で期待されること ポゼッション至上主義からの脱却なるか

バルセロナ時代にはメッシとの大口論も

メッシとの衝突もあったルイス・エンリケだが、その後は良好な関係が続き、バルセロナは黄金期を築いた 【写真:ロイター/アフロ】

 それでも美しく攻撃的なプレー哲学自体は、選手個々のタレントによって維持されてきた。しかし、チームとしては以前ほどボールポゼッションとグラウンダーのショートパスに固執せず、戦術的な多様化を模索するようになっていった。ロングボールを使ったダイレクトプレー、サイドからのクロスボール、カウンターアタックといった攻撃がそうだ。

 こうした流れの中でチームを任されたルイス・エンリケは、就任からわずか半年で主力選手との衝突を経験している。15年2月のレアル・ソシエダ戦(0−1で敗戦)後に、アノエタ(・スタジアム)のロッカールームで生じた、リオネル・メッシとの大口論である。結局、頻繁な先発メンバーの入れ替えに不満を爆発させ、翌日の練習を無断で欠席したメッシに対し、ルイス・エンリケはそれまでの厳格な内部規律を覆して何の罰則も科さず、選手の起用法まで譲歩した。それが両者の関係を改善するだけでなく、3シーズンにわたる黄金期を築く重要な決断となったのだった。

 果たしてスペイン代表監督となったルイス・エンリケは、デル・ボスケやロペテギのように既存のプレー哲学を順守するのか。それともバルセロナを率いた時のように、戦術的な進化を目指してプレーの多様化を図るのか。少なくとも、ゼロから全く異なるフィロソフィーを持ち込むことはないだろう。

 いずれにせよ、8月31日(現地時間)に発表されるルイス・エンリケ体制初の招集リストには、大きな変化が見られるはずだ。少なくとも、そこにW杯後に代表を引退したジェラール・ピケとアンドレス・イニエスタの名前がないことは確かだ。

レアル・マドリーの選手たちとの関係は?

長年代表を支えてきたイニエスタ(右)とピケが代表を引退。チームは新世代へと受け継がれていく 【写真:ロイター/アフロ】

 10年のW杯優勝メンバーはほとんどいなくなってしまった。イニエスタの代表引退により、スペインは長年中盤のプレーテンポをコントロールしてきた支柱を失った。カタルーニャ独立問題の渦中で批判の標的とされてきたピケも、ピッチ上では頼もしいディフェンスリーダーだった。

 彼らに取って代わる新世代には、サウール・ニゲスやマルコ・アセンシオ、エクトル・ベジェリンといった若いタレントが控えている。彼らが主力に成長していく中で、スペインのフットボールは横パスを多用したスタイルから、より縦へのスピードを重視したスタイルへと傾倒していくかもしれない。

 新シーズンに始まるUEFAネーションズリーグは、ユーロ2020予選とともに、ルイス・エンリケがこれまでとは異なる方向性、そして選手たちとの新たな関係性を明確化していく場となるだろう。

 もう1つの注目点は、バルセロナと関係の深いルイス・エンリケがレアル・マドリーの所属選手たちと良好な関係を築けるかどうかだ。それはロペテギの解任騒動で対立したルビアレス会長とレアル・マドリーとの関係についても当てはまる。

 新生スペイン代表は、近い未来に向けていくつもの話題を提供してくれる。それだけは間違いなさそうだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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